「Diamond Dogs」が作られたいきさつ

David Bowie【Diamond Dogs】アルバム全曲解説!ボウイの心情を投影する楽曲とはの画像

彼なりの美学で時代の最先端を走り続けたDavid Bowie。

実は彼にとってのグラムロックの黄金期はそんなに長くはありませんでした。

絶頂期であった1973年にもあっさりとツアーバンドを解散してしまいます。

自分で何かを作っては何かを壊していく、そんな繰り返しだったようです。

そして新たな野心のもと「Diamond Dogs」を制作します。

それはジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」にインスピレーションを得たものです。

そしてこのアルバムはこの小説をもとにしたミュージカルを構想して創られた曲で構成されています。

こちらの内容については後で解説しますが、このアルバムを理解するために大事なことといえるでしょう。

ジャケットデザインの魅力

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そしてもうひとつ特筆しておきたいのはこのアルバムジャケットデザインのことです。

内容を物語るうえでもコンセプトのレベルを上げることに一役かっています。

ひとめ見てわかる、荒廃した世界を這いまわる犬のような人間。

ハレーションを起こした色彩は不自然で無機的な空間を創り出しています。

当時のブリティッシュロックの世界はアートワークにも斬新なアイデアが盛り込まれました。

そして高いクオリティーを誇るようになります。

どうしてもこのアルバムが欲しいと思わせるような高度な戦術を携えていました。

今現在もこのジャケットはコレクターの間でたいへんな人気があります。

アルバム全曲解説

「Future Legend」(未来の伝説)

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オープニング曲にふさわしい神秘的な幕開けです。

犬の遠吠えがエコーして、演劇の始まりのようなボウイの語り声が聞こえてきます。

「ハンガーシティ」と言っているボウイの声も聞こえます。

この「ハンガーシティ」というのは後にこの曲のタイトルを変えてからの呼び名です。

舞台は荒廃し死体だらけの未来都市マンハッタン

街を荒らす野犬の群れが店を壊し宝石や毛皮を奪い身にまというろついている。

そいつらを「ダイヤモンド・ドッグス」と呼ぶ。

だいたいこのような内容です。

タイトル曲「Diamond Dogs」

陰鬱(いんうつ)なイントロのメロディーとは打って変わってグラムロックのチープな音が弾けます。 

そこから「これはロックなんかじゃない、ジェノサイドだ!」と叫びイントロから2曲目に入っていきます。

ジェノサイドは大量殺人という意味です。

さすがにタイトル曲だけはあります。

待ったなしのかっこよさです。

ジャケット同様無機質な音がリズムを刻みます。

自分たちを「ダイヤモンド・ドッグス」と呼ぶ不気味な犬達が獲物を探しうろついています。

キラキラのダイヤモンドで着飾ってはいますが、さかりのついた野犬達です。

「ハンガーシティ」(死刑執行の街)で犬達は若い女の子を漁り始めます。

歌の中で気になったのは女の子を「マネキン」と言っていたところです。

生きている女の子を誘っているようですが、死体のようでもあります。

舞台は腐敗した死肉だらけの街を闊歩するいかれた男達の話へと展開します。

「Sweet Thing」/「Candidate」/「Sweet Thing」(Reprise)

アルバムの3曲目・4曲目 ・5曲目は組曲のようになっています。

タイトルは「甘いこと」「願い出る者」と訳しました。

ブルースのようなサックスの音がうらぶれた暗い街角を連想させます。

艶めかしい男女のやりとりは今でいうアンサーソングでしょうか。

甘い言葉で誘うほうが女でその誘いに乗るほうが男という設定です。

けれど楽しむことはお互い様だと言っています。

スローテンポの曲でボウイの低音の声が怪しく響き渡りますが、「願い出る者」でアップテンポに変わります。

刹那(せつな)的な愛に酔うというより怯えている様子が曲調の変化に現れていますね。

3曲目でまたスローに戻り未来(若い男なので)への不安を漂わせます。

最後に流れる単調なドラムの音が未来への布石のようでどきどきしてきました。 

「Rebel,Rebel」(反抗)

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この曲はボウイがグラムロックからの脱皮をはかった曲だといわれています。

専門家からの評価が高く、後の時代においても人気があるようです。

確かにこの頃のボウイらしくはありません。

前曲の渋いドラムの音がこの曲につながって、また軽いドラムの音に変わっていきます。

よくいわれていたようにThe Rolling Stonesに似た雰囲気はありますがあまり気になりません。

内容は、未来のある若い子達に「反抗しろ」と言っています。

すべてのことに「反抗」して大人のいうことは聞くなといった内容です。

そして希望のある未来を作って欲しいということでしょう。

ボウイにしてはストレートなメッセージで健全な感じではありますが、物足らない感じもします。

「Rock’N Roll With Me」