ラブソングの新境地へ
RADWIMPS配合の約6割を占めるのが、Voの野田洋次郎が繰り出す歌詞の数々。
彼の中の人生観や死生観が、様々な視点から矢のような速度と角度で鼓膜に刺さってくるのが特徴。
主に「僕」からの目線ですが、時に「神」にだってなれる創造主の目線は多くのファンを魅了しています。
そして、そんな野田さんが得意ジャンルとしていたのが、恋愛ソング。
バンド名をそのまま表したかのような繊細な「僕」が大活躍した初期の楽曲群。
ここ最近は、恋する「僕」の出番は減少気味でしたが、ここにきて再登板。
しかも、絶体絶命をアルトコロニーの定理で乗り越えてきた新たな「僕」。
そんな「僕」を唄っているのが、この名曲「ブレス」です。
ブレスが収録されたアルバム「×と〇と罰と」
震災を経てリリース
「ブレス」が収録されているのが、2013年発売の7thアルバム「×と〇と罰と」です。
実はこのアルバム、前作「絶体絶命」から2年9ヶ月というバンド最長のスパンをとってリリースされています。
この間に起きた出来事こそ、あの東日本大震災。
観測史上最大の地震が日本を襲った災害です。
この影響で福島県を初日に始まるはずだった「絶体絶命」のライブツアーも延期となる事態に。
世界中が救援の手を被災地に差し伸べる中、RADWIMPSもいち早く被災地へのメッセージと義援金を募るサイト「糸色 -Itoshiki-」を開設。
多くの著名人が賛同し、応援メッセージがいくつも配信されています。
野田さんもこの期間は、被災地に物資を届けに行ったりと被災者のために幾度となく動き回っていたそうです。
そうした時間が濃密過ぎたため、一時期音楽と距離を置くことに。
それがバンド最長の空白につながったみたいです。
表現の変化
こうした活動を経験し、野田さんの中の死生観も変化。
震災を受けて、「音楽と再度向き合うことで、4人で音を鳴らせる喜びと責任感が増した」と感じたそうです。
その中には、被災地で感じた日常の儚さ。
つまり、「今日生きていることが当たり前なのではなく、いつ死ぬかわからない感覚のほうが当たり前」だということ。
生きるということを毎日選択しているだけ、と気付いたことも大きいでしょう。
そして、この「生への儚さと選択」を表現した曲としてツアー再開後、真っ先に披露されたのが「ブレス」なのです。
ブレスの意味とは?
では、このブレスという単語。
実は歌詞の中に、一度も出てこないんです。
ということは、野田さん独特の斜に構えた視点の中から、意味を拾っていくしかなさそうです。
どの曲もそうなんですが、これがまあ、頭を使うんですね。
なんせあっちは、「僕」と「神」を行き来できる全知全能の視点を持っている。
対するこちらは、「僕」の視点から出たことのないヒキコモリロリン。
追いつけるはずもなく、幾度と「セツナレンサ」が始まりそうですが、紐解いてみたいと思います。
たらしめるもの
一般概念
はく空気や吸う空気のこと →息、呼吸
声楽や管楽器等での息継ぎ、呼吸点、呼吸音 → 息、声楽、管楽器
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ブレス
ブレスの意味をWikipediaで引いてみました。
大体気づいていましたが、やはりこの「呼吸」と「息継ぎ」の二つが出ましたね。
この二つの意味と野田さんが震災を経て感じた想いを、少し強引にでも繋げて意味を考察してみましょう。
まず、生物を生物たらしめるもの。それこそ「呼吸」です。
この世の生きとし生けるもののすべてが、何らかの呼吸をして生を受けています。
まさに生き物は息もの。人も例外ではありません。
では、呼吸を行う生物の中で人だけが扱えるものは、言葉です。
その言葉を言葉たらしめているのが、「息継ぎ」。
息継ぎがあるから、言葉に意味が付き、リズムが出る。
そして、”人は歌う”のです。
こうした人を人たらしめる要素ですが、生きていく上で常にこの「ブレス」を意識している人間はほとんどいません。
そして、ここに野田さんが震災を経て、感じた想いを照らし合わせれば、こうなります。
「当たり前のように存在する本当に大切なものこそ、大事に持っていたい」。
「でもそれは、思いを止めれば次の瞬間になくなってしまうかもしれないほど脆いもの」。
「自分にとってこんなに大事な存在だったんだなって気づいたものの、一瞬一瞬を大切にしてほしい」。
そんな思いを、当たり前に存在する「ブレス」に置き換えて表現したんではないでしょうか?
そして、歌詞中では野田さんが得意とする「僕」からの「君」への愛の独白という形で、このメッセージを伝えています。
前置きが長くなりましたが、ここからいよいよ歌詞の解釈に入っていきたいと思います。
「君」への想いをつづった歌詞
美しい旋律の中で
同アルバムに収録されたインスト曲「夕霧」とこの「ブレス」はセットで一曲と考えた方がいいかもしれません。
アルバムがクライマックスに向かいだす、中盤の穏やかな場面に佇んでいます。
それほど、両曲には同じ雰囲気の優しさと一体感が感じられます。
そして「ブレス」の歌詞からは、大切な存在である「君」への想いを、大事に言葉にしている印象を受けます。
曲の前半は美しいピアノの旋律の中、野田さんの弾き語りで言葉を紡いでいきます。
そして、後半はバンドサウンドが「僕」の行動をエモーショナルに表現。
僕の感情の変化に、きっと心を揺さぶられるでしょう。