個人的には「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」の主題歌が印象的です。
それを締めくくる「愛はブーメラン」という曲でした。
うる星やつらの主人公「ラムちゃん」を的確に捉えた歌詞は今でも鮮明に覚えています。
三浦徳子さんの美しい言葉選び
それでは三浦徳子さんが作詞をされた「風は秋色」を考察していきましょう。
全編を通して詩的な表現が溢れる素晴らしい歌詞です!
「ミルキィ・スマイル」という表現
La La La...Oh,ミルキィ・スマイル
あなたの腕の中で旅をする
Oh,ミルキィ・スマイル抱きしめて
やわらかなその愛で
出典: 風は秋色/作詞:三浦徳子 作曲:小田裕一郎
「ミルキィ・スマイル」という言葉はおそらく造語かと思われます。
直訳すると「ミルクのような笑顔」となってしまいます。
しかしその言葉に文脈で説得力を持たすのも作詞家の力の一つでしょう。
この歌詞は一見すると恋人と旅行をする幸せな女性を思い浮かべてしまいます。
しかし決してそうではないことが後になって分かってきます。
比喩で魅せる作詞
忘れるために訪れた海辺の街
ちぎれた愛が指に髪に離れない
泣き虫なのはあなたのせいよ
ふるえる心愛のせいなの
冷たい砂足跡振り返れば
遠くでほほえむ
あなたをあなたを感じてるわ
出典: 風は秋色/作詞:三浦徳子 作曲:小田裕一郎
ここで初めて、この曲が失恋した女性の曲だということが分かります。
ある女性が海辺の街に傷心で訪れたという話です。
たくさんの比喩を使ってその女性の失恋の気持ちを表しています。
さらに表現豊かに失恋の悲しみを表した後に「冷たい砂」という言葉が出てきます。
この部分は2番の歌詞を読み解くとより効果が分かるので次の章で後述します。
そしてこの後に2度目のサビが出てきます。
メロディーも歌詞も同じなのに冒頭とは違って聞こえくるような気がしませんか。
これも歌詞の持つ力なのです。
作詞家にとって大事なこと
少しの変化で大きな効果を
恋する切符を手にいれたこの渚で
ひとつのソーダにストローが二本揺れてた
泣き虫なのはあなたのせいよ
心のあざは愛のせいなの
冷たい秋ひとりぼっちの夕暮れ
遠くでほほえむ
誰かが誰かが横切るのよ
出典: 風は秋色/作詞:三浦徳子 作曲:小田裕一郎
ここで彼女が訪れている海の街は、恋人との思い出の土地であることが分かりました。
こういった情報も小出しにしていくことで、じっくりと確実に歌詞の世界に引き込んでいくのですね。
2番の歌詞の多くは、1番を踏襲して作られています。
言葉を少し変えるだけで恋人への気持ちを強まっていくのを表しているのです。
前章でお話しした「冷たい砂」の部分は、2番だと「冷たい秋」という言葉になっています。
1番では「砂」や「足跡」といった足元に視点がありました。
対して2番では「秋」に続き「夕暮れ」という言葉が続きます。
これにより 視界が一気に広がり、夕焼けに染まる街の風景が鮮明に浮かび上がるのです。
前半部でソーダの入ったグラスに焦点を当てています。
これもこの広がりをより効果的にするためと考えられます。
些細な変化や一見関係ないものを組み合わせることによって、三浦徳子さんは美しい歌詞の世界を造り上げていったのですね。
歌う人のための歌詞
名作詞家たちの歌詞において、私が一番驚かされるのは、「実際に歌う人の歌」になっているところです。
今回の曲でも、18歳の可憐な少女だった松田聖子さんのための歌詞になっているのです。
当たり前のことのように思えますが、三浦さんは100人を超える人達に歌詞を提供しています。
そのすべての人達を表現する言葉の幅があると考えたら、三浦さんのすごさが伝わるかと思います。
例えば、同じ失恋の曲でも八神純子さんの「水色の雨」という曲では、全然違った言葉を使っています。
ああ くずれてしまえ
あとかたもなく 流されてゆく
愛のかたち
出典: 水色の雨/作詞:三浦徳子 作曲:八神純子
八神純子さんは情熱的な歌声の持ち主でした。
だから三浦さんは情感溢れるこの歌詞を書いたのでしょう。
ちなみにこの曲はオリコンチャート最高2位を獲得して、八神さんにとって出世作となりました。