奇麗な月の光が
始まりへと沈み行く
その彼方へ
閉ざされてく瞳で
まだ遠くへ
手を伸ばす
君の嘆きを信じて
出典: to the beginning/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
純粋であるがゆえに悲痛。
この歌詞を初めて耳にした時、私はそんな感想を抱きました。
とても美しい月夜が描かれているのに、月は沈んでいく。
もう目を開けていることもできないほど消耗しているのに、手を伸ばし続ける。
純粋なほどに願いを追い求めるキャラクターたちの姿が目に浮かび、胸に刺さります。
「第四次聖杯戦争」参加者の中で、願いを叶えることができるのはたったの1組。
他の6組は道半ばにして脱落していく運命なのです。
しかし願いはそう簡単にはあきらめきれない。
だから手を伸ばすことはやめないのだと、必死にあがいているのでしょう。
救われたいのは自分自身
救おうとして救われたのは
本当は誰が救われたくて
迷う心が空に穴を穿つ
君を選んで
たった二人の歓びを探せたなら
どんな冷たい焔に身を焼かれても
微笑みの近く
出典: to the beginning/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
切嗣は世界の救済を願っていますが、本当に救われたいと願っているのは自分自身。
終わることのない戦いの連鎖から、自分自身が救われたいと思っているのです。
しかし切嗣にも、少しの間だけ平穏に過ごせた時間がありました。
それは妻であるアイリスフィールと過ごした日々。
アイリスフィールと生きるため、「今ならまだ引き返せる」と戦いを去ろうとした場面もありました。
もし君との幸せだけを望むことができたのなら。
この運命から逃れることができたのなら。
そんな切嗣の迷いやアイリスフィールへの想いがこの部分の歌詞に表れています。
世界を救うために
のたうつ夢 命の意味
怯えてるこの世界を
澄んだ水の中へ還したい
出典: to the beginning/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
「聖杯」があってもなくても、人は誰もが願いや夢を持っています。
だからこそ幸せもあれば不幸もある。
そんな世界の在り方が「怯えてる」という言葉に表れていると思います。
切嗣の願いである世界平和は、そんな世界の怯えを排除することでもあるでしょう。
「世界をあるべき姿に還す」という切嗣の想いが「澄んだ水」という言葉で表現されています。
「始まり」へ続く物語
「Fate/Zero」で描かれる「第四次聖杯戦争」は、実は「Fate/stay night」という作品の前日譚。
「Fate」シリーズの原点となった「Fate/stay night」に続くための物語なんです。
そんな「Fate/Zero」の特徴が、「to the beginning」のラストの歌詞から伝わってきます。
僕らは「ゼロ」へ進んでいく
哀しみだけ消せはしない
そんな人の心の理さえ
この手で切り裂いて
Down to zero we go
出典: to the beginning/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
切嗣が何度も命を救い、命を奪って学んだこと。
それは「哀しみは決して消えない」という現実でした。
とても残酷で変えようのない「人の心の理」ですが、切嗣はあらがおうとします。
「聖杯」で願いを叶えることができれば、不可能も可能にできるはず。
そんな切嗣の悲痛な想いがこのパートの歌詞からも伝わってきます。
英語の歌詞の部分には、作品名の一部である「zero」という単語が見られます。
ここで表している「zero」は、無という意味だけでなく、次の世代のことも表していると考えられます。
「Fate/Zero」の次の世代であり、シリーズの原点である「Fate/stay night」。
「Fate/stay night」というゼロ地点に至るために、この物語は描かれたのです。
また、「Fate/Zero」では、毎回サブタイトルの下に時間をマイナスで表記する演出が見られました。
その時間が最後に「ゼロ」になることで、物語は終わります。
だからこそ、「ゼロに至るまで僕らは進む」という意味の歌詞は、「Fate/Zero」にぴったりなのです。