親友であり、誰よりも大切な存在であったマコト。
そんなマコトであっても、キダは嫉妬しないわけにはいきません。
同じくらいヨッチのことを愛していた2人。
そして同じくらい2人のことを愛していたヨッチ……。
その中からカップルを作るということは、幸せなことであり、残酷なことでもありました。
例え2人が結ばれようと、キダの中から恋心が消えることはありません。
「大丈夫だ、応援できる」と自分に言い聞かせながら、少しずつ想いが膨らんでいくのが感じられます。
まるで愛の炎が、3人で過ごす大切な日々を燃やしてしまうように。
こんなに辛い想いをするくらいなら、いっそ1人になってしまおうか……そう考えたこともありました。
ヨッチから身を引くということは、恋人であるマコトとも関わらなくなるということです。
そんな悲しいことは出来やしないのに、そんな可能性ばかり考える愚かな自分に、嫌気が差してしまいます。
まだ痛む小さな傷の正体とは
海は口遊む
翡翠の底で
陽の射す時を待ちわびている
胸を締める小さな傷も愛している
出典: ゆるる/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
年を重ねるにつれ、次第に小さくなっていった心の傷。
まだ完治したわけではなく、時折思い出したかのようにチクリと痛みが襲います。
薬では治らないその傷は、再びうずきだすのを待っているかのようにも感じられ……。
それは光の届かない海の底で、いつか太陽を目にすることを願う魚たちのように、切なくて哀れな感情です。
しかしこの傷も、ヨッチやマコトと過ごした紛れもない証拠の1つに違いありません。
今の自分を作り上げている大切な1ピースである傷のことを、キダは愛さずにはいられないのです。
下らない日常が大切だった
闇の中を歩くような日々
誰か夜を触って か細い痛みまで
いつの日か飛行した声も届きますように
闇はやがて灯って思い出となる
その前にただ隣で笑っていたいだけ
出典: ゆるる/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
2番のサビは、まさに「キダの願い」を表しているフレーズが印象的です。
闇のような毎日でも、いつか光が差して笑い合える日が来るはずだ……そう願わずにはいられません。
でなければ、愛し合う2人をただ見つめるキダの立ち位置は、何よりも辛いものになってしまうでしょう。
いつか来たる幸せな未来まで、今はただ君の隣で笑えていればそれでいい……。
主人公のたった1つの願いすらも、ヨッチが消えたことで叶わなくなってしまいます。
いつも2人を笑顔にしてくれた存在……その大きさは、居なくなってから改めて気づいたものでした。
魔物や獣が示すものとは
心揺れる その様を包み隠さずに
曝け出して生きていけたら幸せだ
その為に魔物でも獣にもなろう
下らない話でも君と続けたいんだ
出典: ゆるる/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
楽曲を通して何回か登場する「魔物」や「獣」といった印象的な歌詞。
アルバムに収録されている他の楽曲にも登場し、須田景凪をイメージさせる特徴的なワードとなっています。
これらは、彼が「獣のように素直に、まっすぐに生きていけたら」という思いを込めた歌詞の数々。
誰かに気を遣うことなく、自分の気持ちに従いながら生きる大切さを説いているのです。
キダにとっての「魔物」や「獣」は、ヨッチやマコトのために生きたいと思える感情のことに他なりません。
例え自分のものにならなくても、自分はヨッチのことを愛している。
そして、それと同じくらいに、マコトのことが大切でたまらない……。
そんな純粋過ぎる想いを貫くために、人間らしく周りに気を遣わず、獣のように生き抜きたいと願うのです。
本当にやりたいことを貫けなかった……。
大切な誰かのために、身を引いて心を覆い隠した……。
そんな過去を持つ全ての人に向け、優しく背中を押すようなメッセージになっています。
最後の魔法に込めた願い
二度と解けないように願い続ける
ちゃんと目を見て言って 君の言葉で
最後の魔法は二度と解けないように
明日も君を思い出す 声が朽ちるまで
その頃に魔物にでもなってたら
あるがまま私をその手で触れておくれ
出典: ゆるる/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
魔法をかけねば叶わない願い……それは、今は叶うことのない「3人での日々」です。
二度と解けないように願うのは、それだけあの日々が大切だったから。
失いたくない、かけがえのない日々だったからに違いありません。
記憶の中の3人は、いつも笑顔のままです。
願わくばずっと続いてほしかったその日々は、もう帰ってきません。
主人公の声はもう、朽ち果てる寸前まで来ています。
届かない願いをひたすらに歌い続ける……そんな姿に、胸が締め付けられそうになります。