ファンが歓喜した久しぶりのボカロ曲

米津玄師「ドーナツ ホール」動画と歌詞考察の画像

今はアーティストとして自身の歌声を届けている米津玄師ですが、デビュー前にはハチという名前で数々のボーカロイド曲を動画サイトに投稿して人気を博しました。

「ドーナツホール」は2013年、2年9カ月ぶりにハチ名義で公開されたボーカロイド曲です。

打ち込みではなく生のバンドサウンドというのも特徴のひとつでした。

2014年に発売された米津玄師名義の2ndアルバム「YANKEE」には、本人が歌う「ドーナツホール」が収録されています。

その歌はどんなものなのか、2013年公開のMVも見ながら考えていきます。

覆い隠したもの

気づけばなくしていた大切なもの

いつからこんなに大きな思い出せない記憶があったか
どうにも憶えてないのを ひとつ確かに憶えてるんだな
もう一回何回やったって思い出すのはその顔だ
それでもあなたがなんだか思い出せないままでいるんだな

出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI

自分の心の中、多くを占めるほどに大切な存在なのに思い出すのはその顔ばかり。

「あなた」がどういう名前で、どこの誰で、どんな声で話したのかまるで覚えていないのです。

環状線は地球儀を 巡り巡って朝日を追うのに レールの要らない僕らは 望み好んで夜を追うんだな もう一回何万回やって 思い出すのはその顔だ 瞼に乗った淡い雨 聞こえないまま死んだ暗い声

出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI

「環状線は ~ 朝日を追う」電車を利用して通勤し夜になって帰宅しても寝て朝になれば仕事に向かうサラリーマンを示し、「レールの要らない僕ら」はそんなルーティンを持たず夜に遊び回る若者のように思えます。

思い出したその顔の、「瞼に乗った淡い雨」はもしかすると涙かもしれません。

何かを言っているのに、そのまま耳に届かず消えてしまいます。

米津玄師「ドーナツ ホール」動画と歌詞考察の画像

何も知らないままでいるのがあなたを傷つけてはしないか
それで今も眠れないのをあなたが知れば笑うだろうか

出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI

MVでは思い悩む女の子が描かれています。

わからずにいることが罪のような気がして、そうして悩み横になっても眠れずにいます。

ペイントで隠された表情

簡単な感情ばっか数えていたら
あなたがくれた体温まで 忘れてしまった

出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI

このシーンの女の子は顔にペイントをして、その表情がわかりにくくなっています。

「簡単な感情」つまりは悩んだり苦しんだりというものから逃げて友だちと楽しいことや面白いことばかり追いかけていたら、大切なものまで忘れてしまっていたのです。

顔に描かれた派手なペイントは、メイクをしたりつらいものから目を背けて一時の楽しいものに身を委ねたりということを表現しているのかもしれません。

自分の本当の気持ちはどうだったか、大切なものは何だったかまでがペイントにすっかり隠れて見えなくなってしまいました。

バイバイもう永遠に会えないね
何故かそんな気がするんだ そう思えてしまったんだ
上手く笑えないんだ どうしようもないまんま

出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI

そんな自分に気がついて、でももう取り返せないと嘆きます。

てのひらで隠した顔は、もう笑うことも満足にできなくなってしまいました。

「どうしようもないまんま」の後、一瞬だけ表情が明らかになります。

目元は髪に隠れてしまっていますが、それは慟哭が聞こえてきそうな表情でした。

穴の向こうには

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