前の歌詞にあった「主人公が強くなれずに傷ついたこと」「期待に応えられなくて謝ったこと」。

どちらも主人公ができなかったのは、相手に納得してもらえるような言葉が見つからなかった結果です。

批判を受けたとき、納得してもらえるような言葉が見つからないまま、自分自身が傷ついてしまった

求められたメッセージを送るのは抵抗があり、できないと断ってしまったのでしょう。

相手に送るべき「言葉」や「メッセージ」がこの歌詞にある「手紙」なのです。

相手が喜んだり、納得してくれるような言葉を探す主人公。

けれど自分自身も心から納得できるような言葉が見つからない

その先には、相手も自分も納得できないままという悲しい結果が待っているだけ。

そんな状況を作ってしまっていることもまた、主人公は悲しくやるせないと感じているのでしょう。

なぜ「手紙」が書けないのか?

主人公はどうして「手紙はいつだって書けないまま」なのでしょうか?

それは、周りと主人公の価値観が大きく違うからなのでしょう。

周りが求めているものは、主人公が納得できるものではないのです。

例えば、鬼束ちひろさんの「月光」という曲。

この中に「腐敗した世界」という言葉が出てきます。

この曲が発売された当時、この表現が独特過ぎると話題になりました。

ここで歌詞を「腐敗」ではなく「悲しい」など他の言葉にしてみたらどうかといった提案があるとします。

しかしきっと鬼束さん自身は拒否するでしょう。

それが鬼束ちひろさん自身が大切にしている世界観なのです。

今回の「書きかけの手紙」には、その鬼束さんの思いが込められているでしょう。

このように考えると、歌詞の中にある主人公と周りの人たちとの価値観の違い

これは、鬼束さん自身が感じていることのようにも読み取れます。

不甲斐ない自分がもらった言葉

居場所を見つけられない

自分を探し出せなかったあの街や
自分を見つけられなかったあの街へ

出典: 書きかけの手紙/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ

主人公は、プライベートや仕事でも自分の居場所を感じられなかったのでしょう。

自分なりに努力をしてみたけれど、なかなか思うような結果にはならなかったようす。

自分は自分のままでいい

ほんの少しだけだけど届いた返事
「まともじゃなくたって それでいいから」と

出典: 書きかけの手紙/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ

主人公はこれまで誰にも理解してもらえないつらさを抱えていました。

けれど、その中でも理解し味方であってくれる人もいたようです。

その意味がここの歌詞に込められているでしょう。

「まともじゃなくてもいい」。

つまりは「あなたはあなたらしくいればよい」という意味です。

しかしまともじゃないという言い方はとても強いように感じる方もいるのではないでしょうか。

これが鬼束ちひろさんの言葉選びのセンスです。

ほんの少しであっても、このように認めてくれる人がいるということ。

この事実は、きっと主人公にとってとても心強いものだったでしょう。

手紙がどうしても書けない苦悩

過去の記憶はしっかり残っている

怒られれば責めた時や 晒されれば悔しかった時
話をすれば楽しかった時も
笑えるほどに思い出せるの

出典: 書きかけの手紙/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ

ここでは、再び主人公の思い出を歌詞にしています。

怒ったり、悔しがったり、楽しんだり。

主人公は周りの人たちから多くの経験をしたようです。

どれも主人公にとってよくも悪くも印象が強く記憶に残っているのでしょう。

けれど丁度よい「言葉」が見つからない