鬼束ちひろの初期ナンバー

【Infection/鬼束ちひろ】「感染」の意味とは?宣伝自粛となった歌詞を解釈!収録アルバム紹介の画像

「月光」「眩暈」「流星群」といった鬼束ちひろの初期の曲には、とても鋭敏で傷つき易い心が歌われています。

そこには他の追随を許さない独自の世界を築きあげています。

彼女が20歳前後に書き上げたこれらのナンバーは名曲ぞろいで、「Infection」もそのひとつです。

今回は「Infection」という楽曲の中で鬼束ちひろが描きたかった想いを紐解いていきます。

その楽曲のタイトルの意味や歌詞の意味など、丁寧に考えていくことでファンの方にも新たな発見があるに違いありません。

鬼束ワールドが凝縮された代表曲

シングルをハイペースでリリース

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「Infection」は5thシングルになります。

1st「シャイン」から約1年半でシングル5枚というハイペースのリリースでした。

それはデビュー前の高校時代に書いていた楽曲があったこと。

さらに「月光」と1stアルバム「インソムニア」のビッグヒットでレコード会社の要望もあったわけです。

この時期に発表された代表曲は、彼女の世界観を知る上で重要なキーワードになっています。

それは、いずれの曲にも鬼束ちひろの感性が凝縮されているからです。

「Infection」はシングルとしてリリース後、翌年の2nd「This Armor」(2002年3月4日発売)に収録されました。

この「This Armor」については、あとでご紹介します。

あの事件でプロモーションが自粛

「Infection」がリリースされたのは2001年9月7日です。

その4日後の9月11日、アメリカで同時多発テロが起こり、日本人も犠牲になりました。

「Infection」の歌詞事件を連想させる部分があるということで、プロモーションが自粛されています。

この曲はテレビ朝日のドラマ「氷点2001」の主題歌でしたが、さすがにオンエアが中止にはなりませんでした。

こうした大きな事件や天災が起こるとしばしば自粛ムードが巻き起こります。

同時多発テロではアメリカで報復の機運が高まりジョン・レノンの「イマジン」が全米で放送自粛になりました。

また2011年の東日本大震災では、公開を控えていた映画「のぼうの城」が1年先延ばしになっています。

戦国時代が舞台で豊臣秀吉の北條攻めを描いた映画でしたが、「水攻め」で堤防が決壊するシーンがあります。

それが震災の津波を連想させるというのが理由でした。

「Infection」で問題になった歌詞はのちほど解説しますが、たんなる偶然にすぎません。

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心の闇を歌った暗い歌詞

「Infection」は「感染」か?

曲調は初期のナンバーに共通するピアノをベースにストリングスがバックに流れるシンプルなスタイル。

ピアノ伴奏だけのライブもあり、この曲はシンプルな演奏が似合っていると思います。

まず述べておきたいのはタイトルの意味についてです。

「Infection」は一般的に「感染」と翻訳されていますが、悪影響や堕落、腐敗という意味もあります。

しかも単に堕落するのではなく、それが悪化している状態を表します。

英語でタイトルを記すことによって、そのタイトルにも多くの意味合いを込めているのではないでしょうか。

この楽曲にどのような感情が込められているのか、ここからなんとなく推測ができますよね。

次は彼女の類い希な才能が感じられるその歌詞の意味を解説していきましょう。

歌詞を紐解いていくことで、その世界観は彼女にしか表現できないものであるということが分かるはずです。

自分の気持ちとは裏腹な言葉が持つ危うさ

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「何とか上手く答えなくちゃ」
そしてこの舌に雑草が増えて行く

鼓動を横切る影が
また誰かの仮面を剥ぎ取ってしまう

In the night
I sit down as if I'm dead

爆破して飛び散った心の破片が
そこら中できらきら光っているけど
いつの間に私は こんなに弱くなったのだろう

出典: Infection/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ

ポイントは舌に生える雑草でしょう。

生命力が強い雑草は所かまわず生えるので田畑には邪魔な存在です。

人とのコミュニケーションは難しく、考えとは裏腹なことを言ってしまうものです。

話すほどに自分の気持ちとはどんどんかけ離れていく。

その言葉が人の本質を突きすぎると、相手を傷つけて反発を呼び自分にも跳ね返ってきます。

そんな経験は誰にも心当たりがあるはずです。

人の二面性は悪い意味に取られがちですが、誰もが仮面という外面があります。

仮面は自己防衛には必要で、いたずらな衝突を避ける側面もあります。

続く英文は「夜中に私は死んだように座り込む」という意味です。

最後がサビになります。

同時多発テロで世界貿易センタービルが崩壊する場面を連想するとして問題になった部分ですね。

飛び散ったのは自尊心とも解釈できます。

これは自尊心を失って自己嫌悪に陥った自分を語っているのであり、事件とは関係ありません。

自分の心情を語っているため、実際の出来事を歌っているわけではないからです。

飛び散ったということからも分かる通り、彼女は深く傷ついています。

トラウマといえるほどの傷つき様だと考えられるでしょう。

そして彼女は自問自答をしています。

いつからか傷つきやすくなってしまった自分のこれまでの人生を省みているのではないでしょうか。

自身の弱さを吐露しながらも、自分と向き合う彼女からは凛とした優しさを感じます。

彼女の楽曲の中で感じることの多いのは、力強い優しさ。

この楽曲でもそれが表れているのです。

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曲のテーマが歌われた重要な部分