抱きしめることもそばにいることも、恋愛関係にあれば普通のことです。
それ「だけ」だとあえて歌っていることから考えられるのは、それ「以外」を求め過ぎた可能性です。
自分の思い通りにならないからといってわがままになり、彼と別れたのではないでしょうか。
わがままだった頃の彼女はきっと、無邪気に笑っていたのでしょう。
思いきり抱きしめたい
この腕を伸ばして
出典: 笑顔の行方/作詞:吉田美和 作曲:中村正人
この歌詞の表現から、「抱きしめて欲しい」のではなく自分から抱きしめたいのだと読み取れます。
彼に何もかも求めていた頃は、抱きしめてもらうのが当たり前だったのかもしれません。
だから今、自分から愛しに行きたいと考えているのではないでしょうか。
新しい自分にしかできないこと
あの頃できなかったことが今はできるようになり、着実に大人になっていく女性。
新しい一歩を踏み出す準備を着々と整えます。
大人になった自分に必要のないもの
髪を上手に編めるようになって
マニキュアだってうまく塗れるわ
もうあの頃の私じゃない
同じ笑顔はできなくても
出典: 笑顔の行方/作詞:吉田美和 作曲:中村正人
学生ではなくなった彼女は「あの頃」と今の自分を比較します。
髪を綺麗に編めなかったあの頃は、友だちに編んでもらっていたのかもしれませんね。
もしくは編み目のズレを彼に指摘された経験があるのかもしれません。
しかし今の彼女は、自分の髪は綺麗に編むことができるのです。
ちょっと背伸びをしてマニキュアを塗ったあの頃は、塗りムラがあったり皮膚まで塗ってしまうこともあったのでしょうか。
大人になりきれずに大人ぶっていたあの頃から、女性は大きく成長を遂げました。
当然の成長ですが、彼女にとっては大きな意味を持っているのでしょう。
やりたい放題で無邪気に笑っていたあの頃の私ではないのです。
無邪気な笑顔は魅力的ですが、そうしたものに頼る必要のない大人になりました。
手を伸ばす準備はできている
手を伸ばす勇気に換えた
ベクトルの行方は
あなただけに向かっている
まっすぐに
出典: 笑顔の行方/作詞:吉田美和 作曲:中村正人
彼女はもともとあったベクトルの向きや意味を自分の力で変えたようです。
矢印の先が向かうのは彼の方。
彼を抱きしめたいと思う心が、ベクトルの大きさに表れているのでしょう。
そのベクトルは、今までどこを向いていたのでしょうか。
彼ではないとすれば、彼女自身に向いていたのだと考えられます。
進みたい方に目を向ける
泣いているだけで何も変えられない自分も、もうここにはいません。
後悔に苛まれた夜が自分を幾重にも強くしてくれました。
あの頃の笑顔を否定したくはない
たった一言が
いつも言えなくて
泣いてばかりの私を消した
出典: 笑顔の行方/作詞:吉田美和 作曲:中村正人
彼女の態度が原因で二人の仲が壊れたのだとすれば、たったひと言で解決したかもしれませんね。
わがままばかり言ってごめんね。気持ちを考えずにごめんね。
しかし、勇気を出してその言葉を伝えたとしても、関係が元に戻るという確証はありません。
もう一度傷ついて終わるだけかもしれないと考えると、なかなか一歩が踏み出せなかったのでしょう。
彼のことが好きでもう一度取り戻したいけれど、ひと言が言えない。
人知れず涙を流していたようです。
彼女がもともと持っていたベクトルは、こうしてうじうじしていた自分自身に向いていたと考えられます。
ベクトルの先は長い間自分に向かっていて、自分を責め続けていたのです。
自分を許せるほどの自信もなかったのでしょう。
でも今の彼女は違います。あの頃の私ではないと胸を張って言える自信を持っています。
だから過去の自分と決別できたのです。
何も失くしてなどいない
同じ笑顔はできなくても
出典: 笑顔の行方/作詞:吉田美和 作曲:中村正人
過去の自分と決別したと言っても、あの頃持っていた純粋さや一途な想いを捨てたわけではありません。
自分を責めていたエネルギーを、彼を抱きしめる勇気へと変換しただけのこと。
過去の自分に向けていた目を、これから先へ向けたのです。
失くしたものは何もないし、無邪気な笑顔も失くしたわけではないのでしょう。
でも彼女はここで再び「同じ笑顔はできない」と言いました。
おそらく、あの頃の無邪気な笑顔を心のどこかで追い求めているのでしょう。
あの笑顔を否定したくはないのです。
できることなら自信をつけた今の状態で、無邪気に笑いたいのではないでしょうか。