宇多田ヒカルの幅広い音楽の届け方
NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」主題歌
「とと姉ちゃん」は2016年4月4日よりNHKにて放送が開始されました。
高畑充希が主演で「とと」とは「父親」という意味で使われています。
3姉妹の長女である小橋常子(高畑充希)は亡くなってしまった父親に代わって、母・妹を支えていくために奮闘します。
配信限定シングルとして発売
アルバム「Fantôme」
そして、2016年9月28日には6枚目のアルバムに収録されCD化されました。
「花束を君に」はこのアルバムの3曲目に収録され、オリコンチャート4週連続1位というCDが売れなくなった現在では珍しくロングセールスを記録しました。
「花束を君に」の「君」は誰?
普段からメイクしない君が薄化粧した朝
始まりと終わりの狭間で
忘れぬ約束した
出典: 花束を君に/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
タイトルにも出てくる「君」という存在。
導入の部分でも出てきます。
「君」は忘れない約束をした相手であり、過去形で表現していることからすでにいない人であることが伺えます。
そして、その約束をしたのは「始まりと終わりの狭間」です。
ここでは「朝と夜」「生と死」など、様々な想像を張り巡らすことができます。
冒頭の一節を見ると普段しない化粧を薄くする姿が描写されています。
薄化粧に結びつけることを考えると「過去形」であることや「生と死」から身近な人の死を看取った朝のように受け取ることができます。
花束を君に贈ろう
愛しい人 愛しい人
どんな言葉並べても
真実にはならないから
今日は贈ろう 涙色の花束を君に
出典: 花束を君に/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
では、一体その身近な「君」は誰なのでしょうか。
宇多田ヒカルにとって近年で亡くなった身近な人といえば「藤圭子」ではないでしょうか。
母であり、尊敬する歌手でもあった藤圭子は2013年に亡くなりました。
人間活動中に亡くした母である藤圭子の存在はやはり宇多田ヒカルにとっては大きいものでした。
アルバム「Fantôme」の制作もそこを起点にスタートしていったそうです。
「Fantôme(幻)」になってしまった母、藤圭子への想いを「花束」に例えて綴られているのが「花束を君に」なのです。
亡くなってしまえば、言葉を交わすことはできません。
たとえ届けたい言葉を発しても、もうそれは本当の言葉として届けることはできないのです。
そんな悲しみやもどかしさを涙に、そして、涙を花束に例えています。
愛しき母を弔うために花束を贈る姿が目に浮かぶようです。
毎日の人知れぬ苦労や淋しみも無く
ただ楽しいことばかりだったら
愛なんて知らずに済んだのにな
出典: 花束を君に/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
「愛しい」という感情はどんな時に育っていくのでしょうか。
ただただ自分が楽しい時間を過ごしているだけでは、その気持ちは育ちません。
相手の苦労や淋しさを目の当たりにしたり、感じ取ることで、相手のために何かをしてあげたい、支えてあげたいと思うものです。
つまりはその感情を「愛しい」と呼ぶのではないでしょうか。
しかし、「愛」という感情を持つことで失うことへの恐怖や、失った時の悲しみも比例して大きくなります。
大切な感情ですが、「愛」を知らなければこんなに悲しむことはなかったのに、と悲しみの深さを読み取ることができる歌詞になっています。