1978年のアルバム「ローリング30」収録曲

吉田拓郎の最高傑作

吉田拓郎【外は白い雪の夜】歌詞解釈!別れ話がこんなにも美しいなんて…フォークの世界にどっぷりハマろうの画像

吉田拓郎1978年発表のアルバム「ローリング30」で多くの楽曲歌詞を松本隆に委ねました

吉田拓郎は押しも押されもしないフォーク界のプリンス。

松本隆はエイプリルフール、はっぴいえんどなど日本のロック黎明期から作詞を続ける天才です。

意外な組み合わせのようにも思えます。

それでもこのアルバム「ローリング30」を吉田拓郎の最高傑作に推す人も多いです。

特に紅白歌合戦でも披露された「外は白い雪の夜」は今もなお愛され続けています。

大家・松本隆の天才的な作詞によって、映画を一本観終わったときのような満足感が得られるのです。

天才といえば吉田拓郎も紛れもないジーニアスです。

彼は当時のフォークソングスタイルに一石を投じ、学生運動に傾倒しそうになっていた学生たちの心を掴みました。

彼の書く歌は歌謡曲でもポップスでもなく、まるで私小説のような作品です。

吉田拓郎と同世代のファンからも、現代の若者からも「吉田拓郎」と呼ばれる彼は、もはや昭和の怪物といえます。

まるで「吉田拓郎」という個人名が商標登録されているようなイメージです。

2人の天才がそのもてる力をぶつけ合うのではなく融合させて生み出した「外は白い雪の夜」は真の名作でしょう。

松本隆の革新的な話法

松本隆は「外は白い雪の夜」で、別れ話をするカップルの情景を独特の革新的な話法で描いています。

男性からの想いや視点。

女性からの想いや視点。

語りの話者が歌の中で度々入れ替わります。

ひとりの話者によるモノローグ的な歌詞が多い日本の音楽界にとって革命に近い話法です

松本隆の実力がフルに発揮された結果でしょう。

それでは実際に「外は白い雪の夜」の歌詞に触れてみます。

男性が別れを切り出す

メールやSNSなどがない時代の別れ

大事な話が君にあるんだ
本など読まずに今聞いてくれ
ぼくたち何年つきあったろうか
最初に出逢った場所もここだね
感のするどい君だから
何を話すか わかっているね
傷つけあって生きるより
なぐさめあって 別れよう
だから Bye-bye Love
外は白い雪の夜
Bye-bye Love
外は白い雪の夜

出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎

1番の歌詞です。

歌い出しからドラマが始まります。

男性が長年付き合っていた女性に別れ話をする。

場所はふたりが初めて出会った店です。

彼は彼女との出会いと別れをひとつの円環のような形に閉じ込めたかったのでしょう。

現代ではメールやSNSなどで別れ話を済ませてしまう人もきっと多いはず。

でも時代は未だ1978年です。

固定電話や手紙という手段もありましたが、男性は女性と向き合って別れることを決意しました

潔い別れ方でもあります。

そして出会った場所と同じ店を指定するというのはロマンチックな仕掛けをしたものです。

長年愛し合った人と別れるという行為は、今よりずっと重く苦しい作業だった頃のストーリーです。

面と向かって話す、もしくは手紙に綴るという行動は自分の気持ちと真正面から向き合うことに繋がります。

自分の心を誤魔化したり、相手を嘘で丸め込もうとしても上手くいくはずがありません。

しかも長年付き合っていたことを考えると、女性の人生を大きく狂わせることになるのです。

当時は女性の結婚適齢といわれる年齢は20代前半でした。

そういった時代背景も考えると「長年付き合った」という事実は、今よりずっと重たいのです。

別れる理由が泣ける

傷つけあって生きるより
なぐさめあって 別れよう

出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎

別れる理由が泣かせます。

身勝手な別れではなく、お互いのことを考え抜いて切り出したお別れ。

別れ話の段になってもふたりは決して険悪なムードではなく、ただ、お互いの未来のために別れるようです。

具体的に何か諍いがあったから別れるというよりも、どこか漠然とした抽象的な理由にも感じます。

長年付き合い続けて関係が疲弊したのかもしれません。

ふたり一緒の未来が思い浮かべられなかった末のことなのでしょう。

お互いをいたわりあい別れるというのは、男女が別れる形としては美しく理想的です

理想的ではありますが、本心をぶつけ合うだけの気力もなくなったほどの疲れも見えます。

おそらく彼はずっと別れることを考えながら彼女と会い、彼女を抱いていたのでしょう。

そして彼女もいつ切り出されるのかわからない別れを予感しながら、彼の腕に身を委ねていたのです。

このふたりの愛は身も心も焦がすような激しいものではなく、ろうそくの炎のように静かなものだったのかもしれません。

消そうとしてもなかなか消えないろうそくの炎は、派手さはありませんが確実に芯を燃やし続け自然に消えます。

そんな域まで達してしまったふたりの恋は「自然消火」を待つだけだったのでしょう。

彼は自然に消えることを潔しとせず、自分の身勝手で君を捨てるのだという姿勢を見せたのです。

その行為ができる男らしさを彼女は愛していたのかもしれません。

女性の心模様

勘が鋭い女性

あなたが電話でこの店の名を
教えた時から わかっていたの
今夜で 別れと知っていながら
シャワーを浴びたの哀しいでしょう
サヨナラの文字を作るのに
煙草何本並べればいい
せめて最後の一本を
あなた喫うまで 居させてね
だけど Bye-bye Love
外は白い雪の夜
Bye-bye Love
外は白い雪の夜

出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎

話者が男性から女性になります。

それにしても確かに勘がいい女性です。

彼が別れ話を切り出すことを事前に察知しています。

長い間の付き合いの中で彼の気持ちがすぐ分かるようになったのでしょう。

記念日でもなさそうなのに彼が初めて出会った店を指定する。

そろそろ疲れてきたふたりの関係が終わるのだろうという予感。

お互いの感性を知り尽くしていないとこうした別れ方はできません

おそらく彼は彼女との関係をリセットしたかったのでしょう。

出会った場所に戻るとはそういうことです。

もしこの店で出会うこともなく、恋人同士にならなければまた違った人生があったはずだと伝えています。

自分と過ごした時間を忘れて、あの頃に戻って人生をやり直せよと暗に伝えているのかもしれません。

彼女もそれは解っています。でもふんぎりがつかないのでしょう。女性なら共感できる心情ですね。

別れようと心に決めていても、つい心が揺らぎいつもの関係を持ってしまう心の弱さを非とは誰しも持っています。

その行為は「愛を確かめ合う」のではなく「惰性」でしかありませんから、終わった後は虚しいだけです。

でも、別れは先延ばしになるのが常ですから、そのことを彼女は期待したのかもしれません。

切ない女性心理