『椎名林檎』
ある時は東京事変、ある時はDeyonna、シーナ・リンゴとも名乗り、一体この女いくつの顔を持っているのか?
1998年のデビュー以来、天下無敵の第一線を走り続けるこの『椎名林檎』。
現在はこの名に定着しているようだが、今年で20周年を迎えるという事で、つい先日トリビュートアルバムが発売されたばかり。
『アダムとイブの林檎』と命名されたこのアルバム。
今回限りのコラボだというこのアルバムの、メンバーの豪華な事。
椎名林檎自身が、最終回を迎えた時ロスになるぐらいファンだったというドラマ、『カルテット』の主演をつとめた松たか子、Deyonnaの名付け親のレキシなど、そうそうたるメンバーだ。
トリビュートアルバムという事で、椎名林檎はコーラスにとどまっていますが、一曲ごとにそれぞれのアーティストがどのように椎名林檎の楽曲の数々を唄うのか。
先にアーティスト名を確認してから聴くのも良し。
全く何も見ないで、声だけでそのアーティストを当てにいくという聴き方も良し。
そして皆さんなりの批評をしながら聴いていくと面白いだろう。
古き良き日本
椎名林檎の楽曲は、歌詞を読んでいくだけでも非常に面白い。
内容がという事ではなく、その表現が独特。
当て字があったり、大和言葉があったり。。
椎名林檎がそこにこだわるのには、何か理由があるんだろうと考えてしまう。
自身のファッションを見ても分かる様に、明治・大正・昭和初期の女性を思わせる衣装が多い。
この『やっつけ仕事』という楽曲もまた、その様な歌詞を多用している。
それでは次で椎名林檎の世界を覗き見てみよう。
【やっつけ仕事】
慾するのさ。。
毎日 襲来する強敵 電話の電鈴(ベル)
追つては平穏なる感度を慾するのさ
高速 渋滞とは云つても低速だらう
真理と 相反する條理に従服姿勢
出典: やっつけ仕事/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
サビ部分
何も善いと思へない 余り憤慨もしない
今日は何曜日だった? 然(さ)して問題ぢやないか
…嗚呼 痛い思ひをしたいのに
出典: やっつけ仕事/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
2番の部分
興味や関心を奪ふ程 合ふ辻褄
或いは交(まぐは)ひを以て営むで…なんて目論むでゐないか
統御(コントロール)して頂戴 退屈が忌々しい
銀座線終電何時? 然(さ)して問題ぢや無いか
…嗚呼 機会になつちやいたいのに
ねえ好きつて何だつけ
思ひ出せないよ
出典: やっつけ仕事/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
『椎名林檎』という世界
いつもであれば、歌詞の引用ごとにその意味を読み解いていくのだが、この『やっつけ仕事』に関しては、それが容易な事ではない。
自身のスキャンダラスなプライベートと同じく、『簡単な女じゃない』という事だけは理解できた気がする。
おそらくの解釈からいくと、『やっつけ仕事』という曲名から、毎日の退屈な日常をただただこなしながら生きている自分に、鬱々としているのではないか。
誰かを好きになって、抱き合う事も忘れてしまっている自分を憂いでいるのではと筆者は考えてしまう。
実際、女という生き物はその日その日で気分がコロコロと変わる。
今まで良しとしてきた事も、たったこの瞬間から考えがガラッと変わる事なんてよくある事だ。
どうして?と訊かれた所で、それは「性(さが)」だからと答える外ない。
それでも、なんとか自分と折り合いをつけて生きているのだ。
この『やっつけ仕事』、作詞・作曲とも椎名林檎だが、『椎名林檎という女』もまたそんな毎日をなんとか「こなして」生きているのであろう。
古い日本語の表現
言葉遊びでもしているかのように、『やっつけ仕事』の歌詞は、現代を生きている我々には逆に目新しく感じ取れる。
「い」を「ゐ」と書いたり、「じゃ」を「ぢや」と書いたりしている。
よく見ると、小さい「っ」「ゃ」が使われていない。
これは古い日本語の書き方だ。
「奪ふ」や「合ふ」という単語も「う」を「ふ」と旧式で書かれている。
わざわざこの様に、簡単に歌詞を書かないのもまた、『椎名林檎』の世界なのだろう。