何も伝わらないのに
何から伝えればいい
時代に華を添えたくて
筆を執っていたわけじゃない
もう君はわからなくていい
出典: Selfish/作詞:Nariaki Obukuro 作曲:Nariaki Obukuro
続く5曲目の「Selfish」も彼自身の心情を吐露したパーソナルな歌でしょう。
「時代に華を添えたくて」音楽を作ったのではない。
まさしく「分離派」だった自身への「喪の仕事」を行っているのです。
このフレーズも自然と浮かび上がったものだそうです。
宇多田ヒカルとの共同作業
宇多田ヒカルは作詞・作曲・アレンジまで全てを一人で行えます。
さらにレコーディングには必ず立ち会う。
実はこのような姿勢で音楽に接するアーティストは稀有だと言います。
一方小袋成彬もセルフプロデュースに長けています。
そんな彼を宇多田ヒカルはどのようにプロデュースしたのでしょう?
これは誰でもそうなのか?
騒がしい部屋の窓側の席
西日に舞う埃見つめている
遠くに聞こうえる 今どこで吠えてる
僕らを他に荒野で一人
I don’t wanna be the lonely one
仲のいいフリにも出来ずに
But they call me the lonely one
上手く生きたつもり
真冬の冷気 肺に取り込み
体へ死にゆく
出典: Lonely One feat.宇多田ヒカル/作詞:Nariaki Obukuro,Hikaru Utada,Yaffle 作曲:Nariaki Obukuro,Hikaru Utada,Yaffle
宇多田ヒカルは小袋さんの意見を極力尊重した引きのプロデュースに専念したそうです。
アルバムの核となる「Lonely One feat.宇多田ヒカル」についても同様です。
いつもよりアグレッシブに歌われる彼女のパートは小袋さんの指定だったそうです。
しかし宇多田さんが一つだけ徹底したことがありました。
それが作詞のプロセスです。少しでも疑問に思うことは厳しく指摘します。
「これは本当に最後まで考え抜いたのか?」と叱咤されたといいます。
その結果全ての曲で印象的なフレーズを作ることに成功しています。
「僕らを他に荒野で一人」。なんて美しいフレーズなのでしょう。
美しいサウンドの秘密
「分離派の夏」を通してヘッドホンで聴くとその重厚なサウンドに驚かされます。
例えば宇多田ヒカルとの「Lonely One」には様々なトリックが凝縮されています。
ドラムサウンドひとつを取っても1曲の中で様々な音色を使用しているのが分かります。
また最後に曲が急に転調するパートがあります。
これは2曲あったアイディアを直感で1曲にまとめた結果だと言います。
ドラマチックな展開を表現するのに見事に成功していますね。
またサウンドのこだわりはゲストミュージシャンにも及びます。
例えば「E. Primavesi」でドラムを叩くクリス・デイヴ。
彼はロバート・グラスパーと共にジャズを閉鎖的な世界から解放した1人です。
最近では宇多田ヒカルの「あなた」のPVで彼のドラムを見られます。
また小袋さんのギタリストとしての実力も聴きどころです。
「042616 @London」、「Daydreaming in Guam」、「Summer Reminds Me」の3曲。
これは小袋さん自身で弾いたギターを採用しています。
以前インタビューで「フライング・ロータスは簡単にギターアレンジできる」と言っていたのを思い出します。
全編を通して聴こえるエレクトリック・ピアノとストリングスアレンジも素晴らしいです。
宇多田ヒカルの参加という話題性抜きでも歴史に残る作品が「分離派の夏」なのです。
小袋成彬のもうひとつの顔
N.O.R.K.のボーカリストOBKR
小袋成彬が学生時代に組んでいたユニット「N.O.R.K.(ノーク)」。
当時の彼はOBKR名義で主にボーカルと作詞を担当していました。
流麗なストリングス、憂いを帯びたファルセットはすでに「分離派の夏」を予感させます。
ジェイムス・ブレイクやレディオヘッドを想起させるサウンドは高い評価を得ていたのです。
ここでの活動が後の宇多田ヒカルとの出会いに繋がるのですね。