ぼくりりが渾身のラストアルバム「没落」に込めた想い
「ぼくのりりっくのぼうよみ」、突然の引退宣言!
2018年9月某日、とあるニュース番組でその発表は行われました。
「ぼくのりりっくのぼうよみの引退」ーー若干20歳という若き才能のあまりにも早すぎる引退宣言。
2019年の1月をもって活動を終えるというあまりにも唐突すぎるその発表に驚かされたのも早3ヶ月前のこと。
2018年の年の瀬となった今、彼の引退がいよいよ現実味を帯びてくるのでした。
ラストアルバム「没落」、ベストアルバム「人間」の同時リリース
ラストアルバム「没落」とベストアルバム「人間」が、2018年12月12日に同時リリースされました。
其々のアートワークは女性の後頭部のヘアアレンジにより、その世界観が表現されています。
このタイミングでのベストアルバムの発表は、決して商業的な見地によるものだけではないと思います。
ぼくりりのアーティストとしての集大成を見せるという意味で、必要不可欠な2枚といえるのではないでしょうか。
「没落」に投げ込まれた暴力的なほどの解放感
「没落」という言葉の響きからは考えられないほど、このアルバムは解放感に満ちています。
若き天才の苦悩ーー彼が戦ってきたあれこれの事を、我々が推し量るのは野暮なことなのかもしれません。
しかし、「没落」を聴き終えて、ひとつだけ確信した事があります。
彼がぼくのりりっくのぼうよみを辞めることが、なんだかとても楽しそうですらあるということ。
そして、それはこの「没落」というアルバムを聴いたからこそ湧き上がってきた感想でした。
何故、彼は3年間かけて築き上げてきたぼくのりりっくのぼうよみを辞すのか?
個人的見解を踏まえて、「没落」に彼が込めた想いを紐解いていこうと思います。
1.遺書
ズラリと並んだ「没落」の曲目、一番上に見えるタイトルに感じる不穏さ。
「没落」がぼくのりりっくのぼうよみを終える為の作品なのだと突きつけられているかのごとく。
ちなみに、「没落」初回限定盤のみ、「ぼくのりりっくのぼうよみ 遺書」が同封されています。
天才としての苦悩
一面の銃口に囲まれて暮らすような気持ちです
蜂の巣にされるのもそう遠くない未来でしょう
そんな未来が脳裏を過ぎります
次第にそれしか考えられなくなっていきます
私が筆を置くことにした理由です
出典: 遺書/作詞:ぼくのりりっくのぼうよみ 作曲:ケンカイヨシ・ぼくのりりっくのぼうよみ
「遺書」に綴られているのは、アーティストとして世間に立つことの苦しさでした。
彼がぼくのりりっくのぼうよみを辞める理由が此処にも、至ってシンプルに、堂々と書かれています。
「没落」は、その苦悩すらもエンターテイメントとして提供しうる作品。
彼の天才たる所以は、此処にあると言ってもいいかもしれません。
ぼくのりりっくのぼうよみの辞職を前に、安っぽい感傷は不要なのだと知ります。
ひとり勝利を確信している「ぼくのりりっくのぼうよみ」
”あなた”に届いたかはわからない
ただ此処にこの言葉は残っている
出典: 遺書/作詞:ぼくのりりっくのぼうよみ 作曲:ケンカイヨシ・ぼくのりりっくのぼうよみ
「誰かに届けたくてこの作品を作りました。」と口にするアーティストは多い。
それほどに「誰かに届ける」という行為は、まさにアーティストの原動力になるものなのでしょう。
「没落」も世間に向けてリリースされたという時点で、誰かに届けようとしている作品である事は間違いありません。
しかし彼が「遺書」で綴る歌詞からは、それに対する「諦念」のようなものが感じ取れました。
ぼくのりりっくのぼうよみを引退する事でしか解決出来ないほどに、膨らんでしまっていた違和感や苦しみ。
拭えないなら辞めるしかないという彼自身の選択を、尚早だと避難する人もいるかもしれません。
しかしながら、「没落」も今までリリースしてきた他の作品達も、この世からなくなることはありません。
私達が未だにニルバーナやビートルズの名盤を聴くことが出来るのと同じようにーー。
ぼくのりりっくのぼうよみとしての活動を終えても、そしていつか彼が死んでしまっても。
彼の生み出した音楽は此処に在り続け、人々は彼の音楽にアクセスする事が可能なのです。
その事実はこれからもただ在り続けます。
彼を苦しめた全てのものへ勝利として、絶対に揺るがない事実として。