そうやって作った 頑丈な扉
この世で一番固い壁で 囲んだ部屋
ところが孤独を望んだ筈の 両耳が待つのは
この世で一番柔らかい ノックの音
出典: プレゼント/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
世界から自分の身を守るために作った「頑丈な扉」。
その扉は世界で一番固い壁で作られています。
そしてその世界一固い壁で四方を囲んだ部屋に自分はいます。
誰も傷つけない、誰も傷つかない為に作ったこの部屋。
孤独を望んで作ったはずのこの部屋で待つのは「この世で一番柔らかいノックの音」。
自分で望んで作った孤独な孤独の中で、それでも優しい誰かの訪問を待ってしまう自分がいます。
自分が本当に望むのは真の孤独ではないのだと、孤独になって初めて知るのです。
震えながら助けを求める「正しい姿」
泣く事は正しい
ええと、うん
きっと 今もまだ震えながら 笑おうとして泣いて
音の無い声で助けを呼ぶ それは正しい姿
出典: プレゼント/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
物語の主が「君」の元に戻ってきました。
その人はいきなり持論を展開するようなことはしません。
あくまでも優しい物腰で「ええと、うん」とそっと語り始めます。
「君」はまだ泣いているのかもしれません。
ずっと涙を流している「君」。
そんな「君」にかける言葉は「いつまでも泣いていてはいけない」。
「もっと前を向いて進まなければ」というようなありきたりな励ましではありません。
震えながら笑おうとしても笑えず泣いている姿。
声も出せずそれでも助けを呼ぶ姿。
「それは正しい姿」だとその人は断言します。
その一言で、「君」はどれだけ救われたことでしょう。
このままでいいんだよと優しく語りかける言葉に本当の励ましを「君」は感じました。
ありのままの「君」の肯定
このままだっていいんだよ 勇気も元気も生きる上では
無くて困るものじゃない あって困ることの方が多い
出典: プレゼント/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
「このままだっていいんだよ」と存在を真正面から肯定されることの安心感。
これこそ「君」が待っていたものなのかもしれません。
勇気を出して涙を拭いてここから出ていかなければ。
震えていないで元気にならなくては。
そう自分に言い聞かせ、あるいは誰かからそう言い聞かされてきた「君」。
「勇気も元気も生きる上では無くて困るものではない」という言葉はまさに目から鱗です。
無くて困るどころか「あって困ることの方が多い」とその人は言います。
勇気や元気という言葉はポジティブで肯定的なイメージがあります。
しかしその人は勇気や元気という言葉が孕む危うさを危惧します。
勇気を出して挑戦し、取り返しのつかない致命傷を負ってしまうかもしれない。
無理に自分は元気だと言い聞かせ、頑張りすぎて倒れてしまうかもしれない。
勇気を出すこと、元気であることは必ずしも安全ではないとその人は示唆します。
勇気を出さなければ負わなかったであろう傷。
元気を出さなければ罹らなかったであろう病気。
高みを目指さなくとも、その場所にそのままでいることはとても豊かなことなのです。
扉に託した望み
でもさ 壁だけでいい所に わざわざ扉作ったんだよ
嫌いだ 全部 好きなのに
出典: プレゼント/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
元気も勇気も出さず、そのままでいい。
自分で作った世界一固い壁で覆われた部屋で一人で過ごすことは悪いことではない。
でも、その部屋には扉が付いています。
その扉を作ったのは他でもない自分自身です。
本当に孤独を望んでいるのなら、全てを壁にしてしまえばよかったのです。
しかし、この部屋の住人は扉を作りました。
そこを誰かがノックしてくれることを心のどこかで期待し、待っているからです。
世界も人も嫌いだ。だから固い壁を作った。
でも本当は全部好きだから、この孤独な部屋に扉を作った。
そんな心の葛藤が見事に表現されています。
自分自身を見つめるということ
「君」一人だけじゃない
ええと、うん
大丈夫 君はまだ君自身を ちゃんと見てあげてないだけ
誰だってそうさ 君一人じゃない
ひどく恥ずかしい事で でも逃げられない事で
そりゃ僕だってねぇ そりゃ僕だってねぇ
出典: プレゼント/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
その人はまた優しく語り掛けます。
自分自身が見えないのは、「君」だけではない。
誰だってそうなんだ。君一人だけじゃないと慰めます。
自分自身を見つめる事は「ひどく恥ずかしい事」そして「逃げられない事」。
それは「僕」だって同じだと言い聞かせます。
ここで、物語をプレゼントした人物の一人称「僕」が初めて登場します。
自分で作った部屋に閉じこもり泣いている「君」に自分を重ねる「僕」。
固い壁で覆った部屋、そこに付けた扉。
固い壁で覆ったのは自分の心です。
勇気や元気が原因で傷付いた過去。
その物語は「君」を描いたものであると同時に「僕」を描いた物語でもあるのです。