「好き」と「憧れ」
光の中に飛び込んで
すごく綺麗でさ
見とれていただけだな ごめんな
出典: あしたてんきになれ/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo Kakudate
思い出を振り返った主人公は、あることに気付いています。
それは、「君」を本当に好きだったかどうか。
主人公が出した答えは「ノー」だったようです。
混同されがちですが、「恋愛感情の好き」と「憧れ」は本質的には別のものです。
恋愛はいずれ結婚にまで発展していくかもしれません。
人生の長い時間を共に歩んでいくには、人間性や価値観が合うかどうかまでが大切です。
誰かの美しさ、見た目のよさ、雰囲気の良さに憧れている気持ちとは違っています。
主人公は「君」に憧れていただけだったことに気づきました。
当時「きれいだ」と思った気持ちは、もちろん本物だったでしょう。
それに憧れた気持ちも嘘ではありませんでした。
しかし、それは人生を一緒に歩んでいくこととは違う方向性を持っていたのです。
自分の憧れに「君」を付き合わせてしまった。
思い至った時に自然と出てきた言葉が、謝罪だったのかもしれません。
電話で分かるものとは?
あしたてんきになれ
すぐにわかるから
君と電話をしてたらすぐにわかるのさ
出典: あしたてんきになれ/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo Kakudate
電話では、基本的に声だけのやりとりです。
表情が見えないだけで、相手に伝わる感情や印象は制限されてしまいます。
それでも伝わってしまうものとは何なのか。
主人公が、もう「君」に好意を抱いていないことです。
人間は、相手の声だけでもある程度の感情を予測することができます。
長い時間を共に過ごした相手であれば、なおさらでしょう。
長く付き合ってきた2人は、声だけで相手の気持ちが分かってしまう。
だからこそ、恋の熱が冷めたことにさえも気づいてしまうのです。
あしたてんきになれ
きっとわかるから
ぼくと電話をしてたらすぐにわかるのさ
出典: あしたてんきになれ/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo Kakudate
もう一度、似たようなフレーズが繰り返されます。
しかし、最初と違うところが1つあります。
1回目の電話は、「僕視点」でした。
「君」の口調から、「君」はもう好意を抱いていないことに気付いているのです。
しかし上の歌詞では、主人公が「君」に語りかける印象が強まっています。
「分かるでしょ?」と念を押しているかのようです。
もしかすると、お互いに愛が冷めているのかもしれません。
主人公は電話口から、「君」がもう主人公に好意を抱いていないことを悟ってしまった。
「君」の方も主人公の声の調子から、もう愛が冷めていることを感じ取っている。
嘘をつき続けていたのは、主人公だけではなかったのです。
もともと、どちらが先に別れを切り出すかを待つばかりのような状況だったのでしょう。
未来を見据えて
別れは悲しいか
涙はこぼさず
心に貯めるものなんだよ
溢れたら自由で
好きにすればいいさ
出典: あしたてんきになれ/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo Kakudate
「こぼす」も「溢れる」も、涙にまつわる表現です。
しかし「溢れる」の方が、長年ためこんでいたものが外に出た感じを受けます。
まるで「君」に対して、悲しみを飲みこんで進めと語りかけているかのようです。
「好きにしなさい」とは、優しくも残酷な言葉だといえます。
一見、相手の自由を尊重しているように思える言葉です。
しかし裏を返せば、「面倒は見ないよ」という意味にもとれてしまいます。
「君」は別れを前にして涙を流すかもしれないし、流さないかもしれません。
その時は泣かなくても、後から思い出したら悲しくなる可能性もあります。
しかし、主人公はその責任を取らず、慰めることもしないのです。
なぜならその時には、もう2人は恋人同士ではないのですから。
「君」へのエール
夜はみつめてる
ありふれたぼくの恋を
夜はみとれてる
君の長く伸びた髪も
元気でいてね
出典: あしたてんきになれ/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo Kakudate
上の歌詞から、別れ話をした時間帯が推測できます。
直接的ですが「夜中」です。
しかも、2人は外にいるのかもしれません。
都会は夜も明るいので、室内にいると昼夜を実感することが難しくなるからです。
涙の面倒は見れないけれど、主人公は冷酷ではありません。
「君」に最後まで優しい言葉をかけています。
憧れから始まる恋はよくある話です。
もちろん、その恋が愛に発展する場合も多々あります。
そして主人公と同じくらい、憧れだったと気づいて終わりを迎えることも多いのでしょう。
次のフレーズからが「君」へのエールです。
「見とれる」という表現から、「君」が美しさを持っていることを伝えています。
別れの理由が「君」にはなく、変わらず綺麗だといっているかのようです。
女性の中には、恋人との別れによってすべての自信を失ってしまう人がいます。
今までかけられた褒め言葉のすべてが嘘だったように思えてしまうのでしょう。
主人公は男性と思われますが、「君」にそう思ってほしくないようです。
「君は綺麗だから、次の相手も見つかるよ。大丈夫だよ」
遠回しにそんなメッセージを伝えているのでしょうか。
また、ここで初めて「君」の容姿が分かります。
「長い髪」です。
伸びたという書き方から、髪が長くなる過程を主人公が知っていると予測できます。
主人公が「髪の長い女性が好き」といったのでしょうか。
「君」は主人公の好みに自分を寄せていたのかもしれません。
「君」の健気さが分かる一文です。