「If I Were A Boy」と男女格差
2008年10月8日リリース、ビヨンセのシングル曲「If I Were A Boy」。
ビヨンセらしいエモーショナルな歌い方でたっぷりと情感を込めています。
彼女は作詞作曲には携わっていないのですが、デモテープを聴いた瞬間に気に入ったそうです。
「If I Were A Boy」のタイトルの通り自分が男の子であったならと考える女性が主題になっています。
先進国であるアメリカ合衆国に住んでいながら、未だに男女の格差を感じるビヨンセ。
彼女の日頃からの問題意識にぴったりな歌詞が書かれています。
ここで大事なことは男女のどちらが上に立つかという問題ではありません。
お互いがそれぞれの立場に成り代わってみたら物事はどう見えるのかをシェアしたい。
そんな気持ちで歌い上げた楽曲です。
日本社会もご多分に漏れず男女の格差が著しく残っています。
「If I Were A Boy」が訴えるテーマに共感する女性も多いでしょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
男女の立場を交換して
女性の事情を理解しない男性へ
If I were a boy
Even just for a day
I'd roll out of bed in the morning
And throw on what I wanted then go
出典: If I Were A Boy/作詞: Brittany Jean Carlson Tobias Gad 作曲:Brittany Jean Carlson Tobias Gad
歌い出しの歌詞に和訳を添えました。
「私が男の子ならば
たとえ1日だけだとしても
朝にはベッドから転がり起きて
着たい服を引っ掛けて出かけるでしょう」
語り手は女性です。
自分が男の子だったならどんな風に過ごせたかを夢想します。
男性は起きてから出掛けるまでに化粧のような手順を省くので好き勝手に服を着て家を出るでしょう。
この歌詞の裏にはすべて女性の私の現実はどうなっているのか知って欲しいという思いが潜みます。
私は朝目覚めたら食事を作って後片付けをして化粧を施して服を選んで。
女性の方が出掛けるまでの手順が男性に比べて多すぎることを嘆いているのです。
その点で男性はいいよねとうらやましがっているのではありません。
こうした側面を男性は考えてみたことがあるのかどうかを問うているのです。
一般的な価値観を疑おう
Drink beer with the guys
And chase after girls
I'd kick it with who I wanted
And I'd never get confronted for it
'Cause they'd stick up for me
出典: If I Were A Boy/作詞: Brittany Jean Carlson Tobias Gad 作曲:Brittany Jean Carlson Tobias Gad
「友だちと一緒にビールを呑んで
女の子たちを追いかけ回すの
好きな娘と遊んで
そしてそのことを咎められたりすることもないの
なぜって友だちは私の擁護をするから」
女性も少女のうちはフラフラ出掛けることさえ許されない家庭もあるでしょう。
その点で男性を育てる際には放任教育のご家庭の方が多い。
この傾向が男女の成人してからの人生も分けてしまいます。
男性は無軌道に遊ぶことが許される。
しかし女性がそうした真似をしていたら、周囲からはしたないと咎められてしまうでしょう。
異性に対しても男性が女性を追いかけ回すことが非難されることは少ないです。
しかし女性が好きな男性を追いかける姿はあまり好まれないでしょう。
こうした事件を起こしていても男性には友だちが味方します。
一方、女性の方は異性どころか同性からも非難されることがあるかもしれません。
こうした差は本当に「性差」だけがもたらすものなのでしょうか。
「性差」というものは自然界の問題でもあり、覆すことが中々難しいです。
しかし本当にそれだけが理由で男性が優遇されているのかをビヨンセは問います。
社会にある見えない規範や常識、価値基準などを疑いたい想いが透けるのです。
特に男性が無自覚なままに優位を誇っているのが不思議だとこの歌で問います。
浮気をする男性へ
強権的な男性を許さない
If I were a boy
I think I could understand
How it feels to love a girl
I swear I'd be a better man
出典: If I Were A Boy/作詞: Brittany Jean Carlson Tobias Gad 作曲:Brittany Jean Carlson Tobias Gad
「私が男の子ならば
自分は理解すると思う
女の子を愛するってどんな感じなのかを
自分がより良い男になることを私は誓う」
自分ならば紳士であるように努力を惜しまないだろうなと歌います。
この影にはそうした努力をしない男性たちにないがしろにされてきた私の人生があるのです。
自分ならば女性の気持ちを理解するはずなのに、なぜ世の男性はがさつで無神経なのかと考えます。
おそらく男性は自分たちがしている悪事に対して無自覚です。
女性を傷つけてしまってもそのことを悔やんだりせずに次の恋愛に向います。
そもそも罪を犯した自覚さえないのですから男性は自分のことを無敵だと思い込んでいるのです。
ビヨンセはこうした強権的な男性を許しません。
メガヒット曲「Irreplaceable」では浮気する男性の強がった態度をディスり倒します。
彼女の人生がどのようなものであったのか心配になるくらいです。
社会に責任を持ったアーティストとして女性たちのロール・モデルを演じています。
この「If I Were A Boy」も同じ傾向を持った歌詞ですがサウンドがかなり違うのです。
この曲は一聴するとエモーショナルなラブバラードかと勘違いしそうな曲調になっています。
しかし実際の歌詞は非常に悲しい気持ちを描いた作品になっているのです。
「性差」と社会のメカニズム
I'd listen to her
'Cause I know how it hurts
When you lose the one you wanted
'Cause he's taken you for granted
And everything you had got destroyed
出典: If I Were A Boy/作詞: Brittany Jean Carlson Tobias Gad 作曲:Brittany Jean Carlson Tobias Gad