摩利支天(まりしてん, 梵: Marīcī, 訳:陽炎、威光)
仏教の守護神である天部の一柱。日天の眷属である。
原語のMarīcīは、太陽や月の光線を意味する。摩利支天は陽炎を神格化したものである。
陽炎は実体がないので捉えられず、焼けず、濡らせず、傷付かない。
隠形の身で、常に日天の前に疾行し、自在の通力を有すとされる。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/摩利支天
このふたつは、もともと「陽炎」という意味では同じものを指しています。
ですので、実態がないという意味では同一であることがわかるわけです。
では、この楽曲はどちらの意味を用いたものなのでしょうか。
考え方によれば同じものだと理解できるので、どちらでもいいような気もしますが…。
一般的でわかりやすい方という意味で、今回の解説では「気象現象」の方をベースに考えていきます。
とはいえ、映画のストーリーからの着想で書かれた歌詞ですので映画を観ていない方には難解なものです。
そしてもともと、歌詞の中でその意味を明確に説明しないこともコンセプトになっていたこの曲。
ヒントとなるものが限られた状況での解説になってきますので、今回は歌詞だけで独自に解説していきます。
では、歌詞の内容に入っていきましょう。
「陽炎」は何の象徴?
「赤い空」に仕掛けられた比喩
夕日落ちるまでの間
しゃがみこんだような街
はしゃぎすぎて無くした
赤い空を僕は待った
出典: 陽炎 -movie version-/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
情景描写に徹した冒頭の歌詞。
昼間から夜へと向かう狭間で夕日が輝くのは本当に短い時間です。
そんな一瞬を切り取り、徐々に静かな夜に向けて腰を降ろし始める街の様子が描かれています。
ここで注目すべきは、そういう状況の中、つまりは夕日を眺めている主人公の心理描写です。
1行目から、時間帯は夕日になり始めた頃なのでしょう。
そして、4行目から主人公が待っているのは太陽が完全に沈みきる一瞬であると読み解けます。
夕日は、沈みきる少し前に最も世界を赤く染め上げるものです。
そのまさに一瞬を主人公は待っている状況が描かれています。
そうまでして確認したい何かが主人公にはあったのです。
「赤い空」を比喩として主人公が確認したいもの。
それは「情熱」であると思われます。
「赤」は「情熱」を想起させる色であり、主人公は3行目でそれを無くしているのです。
このことから何かしらの理由で無くしかけた情熱を、夕日を見ることでもう一度思い出したい。
そう思っていることが読み取れるのです。
この曲でいう「陽炎」とはつまり…
一気に鳴く鳥 遠い紅
いつになく煽る紅
いつになく泣いてるようだ陽炎 陽炎
一気に泣くわ 夜はこない
いつになく煽る紅
いつになく泣いてるようだ陽炎 陽炎
出典: 陽炎 -movie version-/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
待ちに待った瞬間がやってきました。
世界を真っ赤に染め上げるその刹那、主人公の中で大きな鳴き声が聞こえたのです。
それを表しているのは1行目の「鳥」の比喩になります。
ここでいう「鳥が鳴く」という表現は、何かの始まりの合図。
すなわち情熱の再燃を表しています。
そうして燃え始めた情熱に対して、さらに薪をくべるように赤く輝く夕日。
主人公の中で勢いを増していきます。
しかしそれを客観的に俯瞰している人物がいました。
自分の中の内なる自分。
つまりは実体のない自分自身を表す言葉として出てくるのが曲のタイトルにもなっている「陽炎」です。
そんなもう1人の自分が涙する理由。
それは情熱に支配されずに静かに生きることを望んでいるということなのでしょう。
情熱に起因する行動にはリスクがつきものですが、静かにしていれば安寧を手に入れられます。
安寧を望む自分と、情熱に突き動かされて行動しようとする自分。
このふたりの内なるやりとりが描かれているのがこのサビの部分であり、「陽炎」の真意です。
「僕」が待つものとは?
この曲の核心部分
街は静か 花火のように空が鳴った
逃げ遅れた 逃げられなかっただけか
夕日落ちるまでの間
次の海下る雨の理由を
探し続けてる
赤い空を僕は待った
出典: 陽炎 -movie version-/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
2コーラス目の1行目と2行目の部分。
ここでいう「逃げる」という表現の意味について解説します。
主人公が逃げようとしたものが何か。
それは「運命」であると思われます。
なんらかの理由で「情熱」を失い、その状況、つまり「運命」を変えようとした主人公の行動。
それが夕日を見ることでした。
そして眺めているうちに心の中で再燃する「情熱」によって、眠っていたなにかがハジけました。
これまで逃げようとしていた「運命」を受け入れればよかったのだという気付き。
このことが花火のように鮮やかに、大きな衝撃とともに心の中で広がっていったのです。
主人公が待っていたもの。
それはまさにこの瞬間でした。
ずっと分からなかった「運命」に対して取るべき方策を見つける瞬間こそ主人公が求めていたことなのです。
「運命」を受け入れて、その上で情熱を持って人生を歩んでいくこと。
その大切さを教えてくれるのがこの曲『陽炎 -movie version-』なのです。
これでこの曲の解説を終わります。
まとめ
一切の妥協なく、自分たちの世界観を体現していくサカナクション。
どこか懐かしく、それでいて新しい世界を見せてくれる音楽性は唯一無二といっても過言ではありません。
これからも様々な景色を私たちに見せてくれることでしょう!