終わりのない日々
日が暮れた球場で、どこか寂しそうに歌う3人の姿で始まる「白春夢」のMV。
そのイメージと合致するように、静かに、語りかけるように曲が始まっていきます。
My Hair is Badの曲は、誰もが心の奥に抱えている「本音」を綴った歌詞が特徴的。
ボーカルの椎木知仁さんの透き通るような歌声が、歌詞をまっすぐ聞き手に届けてくれます。
「ああ、自分はこんなことを考えていたんだ……」
曲を聞き終わった後、自分の本当の気持ちに気がつかされることも少なくありません。
MVを最後まで見ると、普段見慣れたはずのMy Hair is Badのロゴが反転しているのがわかります。
これにはどんな意味が込められているのでしょうか。
最後まで読み解いていきましょう。
deja vuで思い浮かべるのは
いつまでも続くみたいだった
もう春と言われるならそうだった
触れないと消えてしまいそうだ
deja vu をしゃぶるのにも疲れていた
出典: 白春夢/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
暦の上ではもう「春」になったのに……。
今年の春は、普段の春とはまったく違う日々が続いています。
暖かくなるにつれて気持ちが高まっていくはずなのに、今も気持ちが落ち込んだまま。
入学式や卒業式など、春に行うはずの行事もほとんど行われません。
そう、主人公が生きているのは、私たちと同じ「2020年の世界」。
新型コロナウイルスの影響で自粛を余儀なくされている世界なのです。
望んでもやってこない「明るい春」を思い描いて、去年の記憶を繰り返し思い出して……。
「デジャヴ」に感じるほど、何度も何度も思い出を繰り返す毎日に飽き飽きしてしまいます。
薄い赤色に似ている生活とは
空のトマト缶洗っていた
手料理と言われるならそうだった
水に薄まった赤色が
この生活に似てると思っていたんだ
出典: 白春夢/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
「赤」と言われて思いつくのは、誰しもに流れている血の色です。
本来であれば真っ赤に色づいているはずの血の色が、空虚な生活のせいで薄まってしまった……。
そしてそれは、たった今水に流したトマトの色のように、あっけないものに感じられます。
毎日ただ過ぎていくのを待つような日々の中で、生きている実感など感じられるはずもありません。
「手料理」と呼べるのかどうかも怪しいトマトを使った料理を、ただ義務のように胃に流し込む。
そんな何でもない日々の繰り返しに、主人公をはじめ多くの人が嫌気を覚えているのです。
去年の自分に思いを馳せる
青春の日々を思い返す
去年の今頃を思い出した
青春と言われるならそうだった
薄暗いクラブで流れていた
曲の名は一つも知らないでいた
出典: 白春夢/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
繰り返し思い出していたのは、去年の春のことでした。
あの頃は今とは違って、好きなように好きなことを楽しめる毎日が続いていたはず。
道行く人はマスクをしておらず、それぞれが好きなメイクやファッションを楽しんでいました。
若者が集うクラブも毎夜のように開催され、ただ流れる曲に身を任せる……。
そんな当たり前の日々はもう、いつ帰ってくるかわからない日々へと変わってしまったのです。
月日が流れるにつれ、そのことを次第に受け入れざるを得なくなっていく人々。
そんな日々の中でどこに希望を見出せばいいのかもわからなくなってしまいます。
あの子とも気軽に会えた日々
タクシー探した途中だった
もう朝と言われるならそうだった
急に目が合ってしまったんだ
背の低い唇にキスしてしまった
出典: 白春夢/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
クラブで踊り明かして朝を迎え、重い体を引きずって家に帰る……。
そんな心地良い疲れにも、「青春」を感じていたあの頃の私たち。
顔を隠すマスクなどもなかったあの頃は、あの子の笑顔も、泣き顔もよく見えます。
不意に覚えた胸の高鳴りに身を任せ、そっとあの子に唇を寄せる……。
2人の間を隔てるものなど何もなかったあの頃に、戻れたらどんなにいいでしょうか。
今は人と人との間を、見えない壁がふさいでいます。
仲良くなりたいあの子とも、気軽に会えない日々が続いてしまっているのです。