サビはメロディと合わさって心地よい語感の歌詞が綴られています。

少女が口ずさむ歌が、花びらが散るように柔らかに主人公に降り注いでいる様子が浮かぶようです。

一輪草の花言葉は「追憶」です。

このことから少女がもう亡くなっているのではないかと推察できます。

冒頭で触れた「死」とは少女の死だったのです。

主人公は少女が紡ぐ言葉を思い出し、君や君の言葉以外はいらないと思っているのだと感じられます。

季節の移ろいと憂い

波立つ夏原、涙尽きぬまま泣くや日暮は夕、夕、夕
夏が終わって往くんだね
そうなんだね

出典: 夜行/作詞:n-buna 作曲n-buna

夏は春に芽吹いた新緑の色がさらに濃くなり、生命力に溢れる季節です。

その草木の緑が風に揺れて海のように波打っている景色を見ているのでしょう。

その景色を前に主人公は少女を思って泣き続け、日暮れを迎えているように読み取れます。

日暮れを迎えて、主人公は夏の終わりを感じているようです。

夏の終わりの夕暮れは、日中の暑さをひきずりながらも秋を感じる風が吹きはじめます。

風に吹かれながら夏の終わりを思う主人公は、その季節の巡りに少女のことを重ねているのでしょう。

主人公が少女とずっと一緒にいたいと願っても、それはもう叶わないことです。

季節がどれだけ移り変わろうと、主人公の心は少女に囚われています。

憂いを抱き、追憶から抜け出せない主人公の姿が浮かんでくるようです。

描いた未来と本当の思い出

想像の中の未来

ねぇ、いつか大人になったら、僕らどう成るんだろうね
何かしたいことはあるのかい。僕はそれが見たいかな

出典: 夜行/作詞:n-buna 作曲n-buna

2番は未来のことを思い描く言葉ではじまっています。

自分達がどんな大人になって、何かしたいことがあるのだろうかと想像しているのです。

ただし主人公は自分の将来というよりも少女の未来を思っているのでしょう。

少女が大人になったなら何をして、どんな大人になっているのかを見たいと思っているのです。

しかし少女が亡くなってしまった今、その思いは叶いません。

実像の過去と虚像の未来

君は忘れてしまうだろうけど思い出だけが本当なんだ
そっか、道の先なら着いて行くよ

出典: 夜行/作詞:n-buna 作曲n-buna

過去の思い出は時間が経てば忘れてしまうことがたくさんあるものです。

しかし少女との思い出は確かに共に過ごした時間として主人公の心に残っています。

いずれ忘れてしまうものだとしても過ごした時間が消えてなくなるわけではありません。

主人公と少女が一緒にいたことも本当のことなのです。

しかし逆にいえば未来の想像は実際に起きたことではありません。

主人公が「見たい」と話した少女の未来はあくまでも主人公が思い描いた想像です。

本当か嘘かでいえば、嘘に分類されるでしょう。

そのことを主人公が自分に言い聞かせているように感じられます。

そうして過去の思い出に浸りながら、主人公は歩き出しているのです。

忘れられない少女の思い出

言葉にしない理由

さらさら、さらさら、さらさら、さらさら
花風揺られや、一輪草
言葉は何にもいらないから

出典: 夜行/作詞:n-buna 作曲n-buna

2番のサビの歌詞です。

草木が風に揺れ、梢の音が響く様子が浮かんできます。

揺れる草木の中にも、主人公は少女の姿を見いだしているのでしょう。

少女とともに過ごした思い出が、こうした何気ない自然の中からも感じられるのです。

それは主人公にとって少女と過ごした一瞬一瞬が大切なものだったことを表しています。

主人公にとって少女はどんな存在だったのでしょうか。

「空」を「空」と名付けたように、少女の存在自分との関係を言葉で表すことはできます。

しかし主人公は言葉によって形を決めることは望んでいないようです。

夏の終わりに少女を重ねる