「テイク・ア・バウ」と新時代
2007年にリアーナが発表した通算3作目のアルバム「グッド・ガール・ゴーン・バッド」。
このアルバムからの5枚目のシングルとしてリリースされてメガヒットした「テイク・ア・バウ」。
ゴージャスなR&Bサウンドでしっとりした曲調です。
しかしリアーナの楽曲らしいパンチが効いた歌詞になっています。
登場するのは終りを迎えたカップルです。
ふたりが破局する模様をときにユーモアを交えて表現する作品になっています。
悲しさを微塵も感じさせない歌詞にリスナーは驚嘆するでしょう。
タイトルの「テイク・ア・バウ」とはお辞儀するという意味になります。
誰が誰に対してお辞儀をするのでしょうか。
かなりハイセンスな歌詞になっていますので楽しめるはずです。
他人の不幸は蜜の味という成句通りにふたりの破局ネタを楽しんじゃいましょう。
そしてこのような結末に至らないように男性リスナーは日頃から注意したいものです。
女性リスナーはリアーナが別れに際して一切泣かないことに注目してください。
それでは実際の歌詞をご覧いただきましょう。
「褒め殺し」が歌詞の骨
oh, how about a round of applause, yeah
a standing ovation oooooo, yeah
yeah, yeah, yeah, yeah
出典: テイク・ア・バウ/作詞:ERIKSEN MIKKEL STORLEER 作曲:HERMANSEN TOR ERIK
「拍手喝采はいかがかしら
スタンディングオベーションものよ
オーイエー
イエー、イエーって感じ」
リアーナはまずこう歌い出します。
劇場でのショーのような情景をまず描くのです。
まだまだイントロダクションですが、掴みのようなものでこれからのドラマを予告します。
この内容が具体的に何を指すのかはこれから先を見てください。
登場人物はリアーナをモチーフにしたような語り手の女性である私。
その後にパートナーであった男性のあなたが登場します。
私はあなたに向けてこのセリフを口にしているのです。
額面通りに受け止めると褒めているように感じるでしょう。
しかしリアーナ、あるいは私はあなたを馬鹿にしきっているのです。
「褒め殺し」
褒めているようで相手を貶す言葉の使い方こそが「テイク・ア・バウ」という歌詞の骨になっています。
全編を「褒め殺し」の精神が貫いていますので、その際どさを楽しんでください。
リアーナは別れの風景さえもエンターテイメントに変えてしまいます。
その手腕は素晴らしいものです。
もちろんこの言葉は「褒め殺し」ではなく素直に受け取ってください。
それではドラマの続きを見ていきましょう。
泣く男はブス
面罵するリアーナの強さ
you look so dumb right now
standing outside my house
trying to apologize
出典: テイク・ア・バウ/作詞:ERIKSEN MIKKEL STORLEER 作曲:HERMANSEN TOR ERIK
「今のあなたはバカみたいに見えるわ
私の家の前に突っ立って
謝ろうとしているなんて」
これは「褒め殺し」ではなく面と向かっての強烈な罵倒になります。
これは別れの風景で浮気をしたあなたが私の家まで寄って謝罪をしているのです。
反省することは猿でもできますから謝罪だけで犯した罪を償おうなんてあなたは虫が良すぎます。
ここから先を読むとよく分かるのですが、あなたは本当にどうしようもないクズというかだめんず。
浮気するにしても責任を取ろうなどという気はサラサラないような男性です。
浮気相手にも私にも両方でいい顔をしていようとするズルい男性の姿が描かれます。
こうした男性の行いにキレた私は別れを決意するのです。
浮気されたことで涙を流すことなど一切しない強い女が描かれます。
時代は21世紀ですから「泣く女」のようなメンタリティはポップ・ソングだと非難の対象になるのです。
未だに「泣く女」を描いているアーティストはいないのではないでしょうか。
ビヨンセやリアーナの独創的なアーティストの出現で「泣く女」の文化はなくなりました。
しかし現実ではまだ「泣く女」が確かにいます。
文化・芸術は現実を先取りするか先進的である側面があるのです。
現実に「泣く女」はまだいますが、これから先の時代はそうした旧いメンタリティは減ってゆくでしょう。
男性の方が圧倒的に悪い場合について女性はどうか涙をひと粒も流さずにいてください。
バカな男のために流す涙は無駄でありもったいないものなのです。
リアーナが「テイク・ア・バウ」で伝えたいことはこうした新しいメンタリティでしょう。
あなたは泣いてみるけれど
you're so ugly when you cry please,
just cut it out
出典: テイク・ア・バウ/作詞:ERIKSEN MIKKEL STORLEER 作曲:HERMANSEN TOR ERIK
「あなたは泣くと本当に不細工になるのね
お願いだから 今すぐやめてよね」
酷いいわれようになっていますがこの男に同情の余地はないです。
私は「泣く女」ではありません。
一方であなたは「泣く男」として描かれるのです。
男性の涙に関してはマッチョイズムの後退とともに社会の中で許容されるようになりました。
一昔でしたら「男が涙を流すなんて」などと叱責が飛んでいたでしょう。
一方で「泣く女」というものが文化・芸術の分野では非難される社会が訪れました。
涙の性差に関しての社会学的な研究が待たれます。
もちろんこうした最悪のケースを除いた場合について泣くことや涙を流すことは美しいものです。
しかし原因が男の浮気である場合は「泣く女」はもう許されません。
「テイク・ア・バウ」のドラマのユニークなところは浮気をした男性が謝罪の涙を流すところ。
しかしそこに美しさをまるで感じない私はあなたに向かって「ブサイク」あるいは「ブス」と罵倒します。
家の前で大の男に泣かれてしまっては近所に顔が立ちません。
男は泣くことで賭けに出たのかもしれませんが、私の心は醒めきっています。
ショーの終わりに
「すがる女」にサヨナラを
don't tell me you're sorry cuz you're not
baby when i know you're only sorry you got caught
出典: テイク・ア・バウ/作詞:ERIKSEN MIKKEL STORLEER 作曲:HERMANSEN TOR ERIK