「マン・ダウン」が問うもの

リアーナ【マン・ダウン】歌詞和訳&解説!酷い男に対して主人公が起こした行動とは?女性は共感できる?の画像

2010年発表、リアーナの通算5作目のアルバム「Loud」からシングル・カットされた「マン・ダウン」

レイプ被害にあった女性が相手を撃ち殺してしまうという内容の公式MVが大炎上しました。

最初にお断りしておくと「マン・ダウン」の歌詞にはレイプ被害についての叙述はありません。

しかし友人である男性を銃で撃ち殺してしまう女性の顛末歌詞で描いています。

女性はなぜこのような凶行に走ってしまったのでしょか。

レイプ被害で心底相手を憎みきっていたという公式MV以外の解釈も可能な歌詞になっています。

なぜこんな結末を迎えたのかと戸惑う女性の姿を描いた歌詞になっているのです。

銃社会であるアメリカ合衆国ならではの歌詞になっています。

日本社会でも殺人事件は毎日のようにニュースとして報道されているでしょう。

さらに地球レベルで考えたら毎秒・毎分、どこかで人が殺されています。

こうした殺人事件の背景にあるものはいったい何なのでしょうか。

人はどうして人を殺せるのかを考え出すと鬱々とした気分になるでしょう。

「マン・ダウン」は緩やかなレゲエ風味のハウス・ミュージックになっています。

リアーナの歌唱は切迫していますが、ここまで残忍な内容の歌詞だとは思えないサウンドでもあるのです。

リアーナと制作チームの意図は何だったのでしょうか。

この楽曲で描かれたドラマはどのようなものか歌詞を和訳しながら解説してゆきます。

それでは実際の歌詞を見ていきましょう。

殺人者の後悔

延々と続く懺悔

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Sak pasé!

I didn't mean to end his life
I know it wasn't right
I can't even sleep at night
Can't get it off my mind

出典: マン・ダウン/作詞:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne 作曲:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne

「どうかしたの!

彼の人生を終わらせるつもりはなかったの

間違いだったって理解しているわ

夜になっても眠ることさえできなくなった

どうしても頭から離れなくて」

歌い出しの歌詞です。

登場人物は語り手の女性である私と彼と呼ぶ男性が中心に据えられています。

その他にも雑多な登場人物や街並みが物語を彩るのです。

基本的には語り手の私の独白になります。

この私が物語をすべて説明してくれるのです。

しかし様々に想像力の羽を広げないと事情がよく分からない箇所もあります。

まず彼と呼ばれる男性は歌い出しの時点ですでに私の手によって殺されているのです。

本当に物騒な話が展開されます。

私は自ら手を汚して彼を殺してしまったのですが、自分がしてしまったことを深く後悔しているのです。

しかしいくら後悔したところで殺してしまった人が生き返ることはありません。

それでもこの「マン・ダウン」の大筋は語り手であり殺人者の私の後悔をめぐる話になります。

私は犯してしまった罪について深く後悔しているのにも関わらず警察へ自首することはしません。

むしろ警察の追跡から逃げ続けるにはどうしたらいいかということばかり考え続けるのです。

自分がしてしまったことが間違いであり愚かなものであったことを深く認識しながら逃げます。

まるで自分がしたことと本当に向き合うことができないかのような反応を示しているのです。

殺人者の心境というのは平凡な日常を生きる私たちには理解しがたいものでしょう。

またリアーナだけでなく制作チームにも殺人者はいません。

完全なるフィクションという約束が前提となっているのでエンターテイメントとして楽しめるのです。

リアリティのようなものは二の次であり、まずこの物語を楽しみながら展開してゆきます。

刑罰とは何だろうか

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I need to get out of sight
'fore I end up behind bars
What started out as a simple altercation
Turned into a real sticky situation
Me just thinking on the time that I'm facing makes me wanna cry

出典: マン・ダウン/作詞:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne 作曲:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne

「私はどこかに消えてしまわなきゃいけないわ

刑務所にブチ込まれる前にね

ことは単純な口争いから始まったの

こんなにヤバいシチュエーションになってしまうだなんて

自分と向き合って考えていると私は泣きたくなるの」

とにかく私は警察に捕まることも有罪判決を経て刑務所で服役することも嫌がります。

それは殺人者にとって当然の心境なのでしょうか。

実際、ニュースなどで知る限り自首というケースは少ないように感じます。

殺人はいつかバレる

しかしその日まで逃げ切ってみせると思い込んでしまうのが殺人者の心境なのかもしれません。

法秩序としてこうした殺人者が野放しで生きてゆくことはもちろん怖ろしいことです。

しかし私にしてみると殺人を犯してしまった時点で社会との紐帯を引きちぎってしまったのでしょう。

もう犯してしまった罪をさかのぼって取り消すことは叶いません。

それならば社会に背を向けて、自分だけは無事に生き残ってゆきたいと願うのです。

刑罰とは何かという議論については様々な意見があります。

おそらく犯罪者の自由を許さないことで社会の安定を図ることを主眼にしているのでしょう。

身体的にも精神的にも国家権力によって殺人者を拘束します。

私は殺人者として罰せられて不自由になることが嫌なのです。

私は考えれば考えるほどに泣けてくると告白しています。

しかし私によって殺された彼は泣こうにももう涙ひとつ流せない存在になってしまいました。

この物語の悲劇はどこにあるのかということをよく見極めなければなりません。

私の告白の矛盾

公式MVの問いかけ

'Cause I didn't mean to hurt him
Coulda been somebody's son
And I took his heart when I pulled out that gun

出典: マン・ダウン/作詞:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne 作曲:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne

「だって私は彼を傷付けるつもりなどなかったから

誰かの子どもだったのでしょうね

そして私は彼の心臓を撃ち抜いたの

銃爪を弾いた瞬間に」

私は彼を殺すつもりはなかったといいます。

それではなぜ銃を向けて銃爪を弾いてしまったのでしょうか。

公式MVのストーリーのようにレイプ被害に遭ったことで彼を撃ってしまったのかもしれません。

しかしこの見方は「マン・ダウン」という曲の解釈の可能性のひとつに過ぎないのです。

このページから公式MVへのリンクを貼っておきます。

気持ちの整理がついたら覗いてみてください。

全米で物議を醸したMVです。

一部の人には不快感さえ呼び起こした問題作ですので気を付けましょう。

誰かの子どもというのは硬い直訳です。

彼も人の子だったのに殺してしまったというニュアンスを感じ取ってください。

私の告白には矛盾点ばかりがあります。

犯行がいかに突発的なものであり、熟慮した計画殺人とは違うものであることが語られるのです。

堂々とした開き直りや言い訳なのでリスナーの中には私に感情移入できない人もいるはずでしょう。

こうしたリスナーのために公式MVは真っ当な理由を与えようとしました。

それがレイプ被害での防衛的な行為で殺してしまったという設定です。

しかしこの理由付けがむしろ仇になりました。

レイプ被害は糾弾されるべきものですが、法治社会は私刑を禁止しています。

犯罪者を裁けるのは権力だけなのです。

レイプの加害者はその罪で警察に逮捕されたり、検察によって起訴され裁判にかけるべきでしょう。

こうした手順を踏まずに加害者を殺してしまっていいのかとリアーナは糾弾されました。

しかしリアーナには恋人に酷いDV被害を受けていたという過去があります。

復讐のための殺人というものへ心が傾く理由が彼女にはありました。

難しい問題を提出しますが、倫理と法暴力の存在理由を混同するとこの議論から抜け出せません。

私は銃爪を弾いたら彼はあっという間に崩れ倒れてしまったという事実しか語れないのです。

誰しも偶発的な理由で殺人を犯してしまうと、相手を殺めてしまった瞬間の記憶だけに幽閉されます。

この深刻さの欠如は何か

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Rum-pum-pum-pum, rum-pum-pum-pum, rum-pum-pum-pum
Man down
Rum-pum-pum-pum, rum-pum-pum-pum, rum-pum-pum-pum
Man down

出典: マン・ダウン/作詞:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne 作曲:Shama Joseph,Robyn Fenty,Theron Thomas,Timothy Thomas,Shontelle Layne