自分が『あの子』だったら良かったのに」と、主人公は思っていることでしょう。

自分の好きな人が別の人を好きだったら、そう思う人は多い筈です。

無論そんなことはあり得ません。

少なくとも今のままでは、主人公は想い人の一番になることもまずないのです。

せっかく見つけた雪というハッピーな発見も、すっかりどこかへ飛んで行ってしまいました。

しかし一度抱いた恋心は、そう簡単にはフェードアウトしにくいでしょう。

それがまた主人公を苦しめているのかもしれません。

夢は崩れてしまった

あなたの瞳に映って
「ただいま」「おかえり」を言い合って
真昼に見ていた儚い夢だ
白い息を小さく吐いて
「おはよう」「おやすみ」って
目を合わせ私も言いたかったな
きっとまだ

出典: 願い/作詞:片岡健太 作曲:黒田隼之介

主人公は好きな人と、「ただいま」と「おかえり」という言葉を言う未来も夢見ていました。

更には朝になれば「おはよう」と言い、夜になれば「おやすみ」と言って眠りにつく。

これは家でのことでしょうか?

だとしたら、一緒に暮らしているというシチュエーションですね。

恋が叶って同棲しているかのような、幸せそうな夢。

妄想と呼ばれてしまうかもしれませんが、主人公は想い人と生涯共にいたいと考えているのが分かります。

同時にその時が来ないことも、主人公は分かっているのです。

少なくとも今の時点ではそうでしょう。

それでも夢見ることはやめられません

それが「まだ」という言葉に表れています。

冬の終わり

冬は終わり、やがてがやってきます。

暖かな気配を感じた時、恋は一つの区切りを迎えることになるのでした。

主人公がつけた区切りとは、どういったものなのでしょうか。

雪にのせた想い

雪はずっとふっと
空から来ては
止めどなく降りしきる
想い重ねて
私はずっともっとあなたを

出典: 願い/作詞:片岡健太 作曲:黒田隼之介

今までずっと望んでいた未来が、こうもあっけなく叶わぬものになってしまいました。

「なんて儚い夢なのだろう」と感じたのかもしれません。

柔らかくてか弱そうな雪の姿に、主人公は自らの恋心や夢を重ね合わせているのでしょう。

そして降り積もる雪のように、想い人にもっと思いを寄せていたいのです。

永遠の「まだ」

あなたの瞳に映って
私たち二人笑い合って
絵空に見ていた儚い夢だ
白い息を小さく吐いて
「最高に幸せ」って
きっとまだ
解っていた
ずっと“まだ”なんだね

出典: 願い/作詞:片岡健太 作曲:黒田隼之介

これまで好きな人と幸せになれる未来を夢見つつ、「今はまだ来ないな」と思っていました。

ですが今回のことで、その未来が永遠に来ないことが決定的となります。

要するに、その「まだ」が永遠に続くのです。

好きな人と「あの子」との恋が成就しなければ、夢が実現する可能性は生まれるでしょう。

とはいえ、それも今のところ不確定です。

そしてもう1つ、ここには「まだ」という言葉を通して、現代人が抱えがちな心の闇を痛烈に描き出しています。

「まだ」という言葉の裏に見える現代人の心の病は「執着」と「依存」であり、これが人々を苦しめるのです。

人と人との繋がりが希薄化した現代人はSNSなどを用いてとにかく人との繋がり・絆を作り出そうとしています。

主人公は余りにも片思いの恋に執着しすぎであり、客観視するとそれはもはや病的とさえいえるほどです。

ここから察するに主人公は自分に自信がなく、誰かと繋がっていたいという思いがあるのではないでしょうか。

だからこそ好きな人と繋がることを夢見て執着し、それが叶わない現実を受け止めることが出来ないのです。

この歌詞の鋭い所は「まだ」という単語1つで現代人が抱える心の病の根源を明らかにしていることでしょう。

冬の別れ、春の訪れ

あなたに出会えてよかった
あなたが笑っている未来まで
幸せ祈り続ける夢だ
一生物のギフトはそっと
私の胸の中
「おはよう」と「おやすみ」があって
時々起きては眠ってね
「さようなら」
春の中で

出典: 願い/作詞:片岡健太 作曲:黒田隼之介

失恋はしたものの、主人公は相手への感謝を忘れません。

実は、想い人が幸せになることが主人公にとって一番の願いだったのではないでしょうか。

「できれば一緒になりたいけれど、それであなたが幸せになれるなら構わない」という思いが伝わります。

主人公は優しい人ですね。

そして今まで見ていた夢は、これからも胸の奥にしまっておくことにします。

ですが時折目が覚めたように、恋心が燃え上がっては沈んでを繰り返すことになる様子。

そうしていく内に季節が冬から春になっていくように、主人公の想いにも変化が生じたのでしょう。

春になる頃、主人公は自らの恋に別れを告げるのでした。

それは、想い人と「あの子」の関係が進展したことの暗示なのかもしれません。

入れ替わるように、主人公の恋は終わりを告げます。