この曲が生まれた経緯は
今回歌詞を解説する「瞳を閉じて」。
どうやらこの曲は少し変わった経緯で作られたようです。
この曲はユーミンがまだ「荒井由実」名義で活動していた1970年代。
ユーミンがDJを勤めていたラジオに「母校の校歌を作って欲しい」という応募があったそうです。
応募者は長崎県の離島にある高校の生徒でした。
離島であるが故に、高校を卒業したら島を出てしまう人が多かったようです。
そんな人たちに向けてのメッセージのようなテイストで作曲されたのがこの曲。
正式な校歌になることはありませんでしたが、今でも学校の卒業式で歌われているそうです。
当時はまだデビューしたてだったユーミン。
しかしこの「瞳を閉じて」は後発の名曲に引けを取らない仕上がりとなっています。
デビュー当時から才能は健在であったようです。
初期のユーミンらしい曲
収録されたアルバム
この曲が初めて収録されたのはユーミンの2ndアルバムの「MISSLIM」です。
「瞳を閉じて」以外にも「やさしさに包まれたなら」などの名曲を収録しています。
オリコンチャートでは8位を記録。
やはりデビューしたてながらも世間に注目されていたことが伺えます。
なお、このアルバムのレコーディングメンバーは今では考えられない構成でした。
細野晴臣や鈴木茂などのはっぴいえんどのメンバーやブレイク前の山下達郎など...
これだけのメンバーがレコーディングスタジオに顔を揃える。
ユーミンの影響力はそれほどのものだったのでしょう。
滑らかな曲構成
前述の通り、校歌として作曲されたこの曲。
それ故か全体的に大きな転換や音程のアップダウンはありません。
なだらかでゆっくりと滑っていくようなメロディーです。
キーボードが主体なところが初期のユーミンらしく、弾き語りに向いているように思えます。
他の楽器隊の編成は控えめで、この曲は「歌」がメインなんだという印象。
ですがしっかりと校歌的な構成を残しながらもポップス的な要素が垣間見えます。
曲の随所で彼女の個性と確立した音楽性を同時に味わうことができるのです。
当時20歳と若かったユーミン。
そんな若さを物ともせず「校歌」という厳格的な縛りの中でここまでの曲を作る...
これはまさに「ユーミン恐るべし」といったところでしょうか。
海を思わせる
島の平穏な空気感
風がやんだら 沖まで船を出そう
出典: 瞳を閉じて/作詞:荒井由実 作曲:荒井由実
穏やかで余裕がある雰囲気が漂うこのフレーズ。
この1フレーズだけで聴いている人を島国やそこにある港町に連れていってくれます。
「風が〜」というフレーズは時間が有り余っていることの現れです。
なんとなく、ただぼーっと海を眺めているのでしょう。
そんな中ふいに「沖に〜」と思い立ったのでしょうか。
すぐにではなく、「もうちょっとこうしてから」と窓辺に座っています。
そんな光景が想像できるフレーズです。
また「沖まで〜」というフレーズはポピュラーソングで散見しますね。
しかしこのフレーズを聴いて「この人は漁師なのかな」と思う人はいないはずです。
このフレーズには自然と海を眺めている人を彷彿とさせます。
「魔法のフレーズ」といったところでしょうか。
しかしありふれてるが故に扱いが難しいのも事実。
そんなフレーズを歌の頭にさらっと入れてしまうのがユーミンの凄さでもあります。
誰に贈る?
手紙を入れた ガラスびんをもって
出典: 瞳を閉じて/作詞:荒井由実 作曲:荒井由実
ありふれていながらも思わず「素敵だなあ」と言葉が漏れてしまいます。
なんともロマン溢れるフレーズです。
古風であるという以前に、日本にはあまり馴染みの無い行動のように思えます。
そこにロマンを感じてしまうのでしょうか。
大事なことは「ロマンチック」ではなく「ロマン」であるという点です。
ロマンであるからこそ、ドラマチックではないリアリティを感じることができます。
そして「手紙」とはいったい誰に向けてのものなのでしょうか。
島を離れた友達や家族、様々な相手が想像できます。
前述にある通りこれはロマンある行動。
だからこそ「愛のメッセージ」ではないことが容易に想像できます。