命の尊さと平和の大切さ
何度もリメイクされた作品
「花の匂い」はMr.Children=ミスチルの初の限定配信シングルとして2008年にリリースされました。
15枚目のアルバム「SUPERMARKET FANTASY」に収録され、2008年に公開された中居正広主演の映画「私は貝になりたい」の主題歌になっています。
「私は貝になりたい」は、太平洋戦争で召集された理髪師が主人公の物語。
ごく平凡な市民である主人公=中居正広は、内地で厳しい訓練を受けるのですが、そこにアメリカの爆撃機B29が墜落します。
墜落した爆撃機の搭乗員は瀕死の状態で捕らえられます。
すると、彼は上司から「捕虜を銃剣で刺して殺すこと」を命じられます。
しかし元来気の弱い彼は、負傷を負わせるだけしか出来ず、結局殺すことは出来ませんでした。
やがて、終戦を迎え、無事帰郷し、妻と子供たちと平和な暮らしを再び始めた主人公の元へ、警察がやってきます。
彼は、捕虜を残虐に殺した容疑で逮捕され、戦犯として裁判を受けるのですが、彼の言い分はまるで通らず、そして死刑になるというなんとも辛いストーリー。
この話は映画やドラマとして何度もリメイクされているのですが、命の尊さと戦争の中でのその軽さ、そして理不尽さ、それから家族の大切さを痛切に描いた作品です。
命、そして愛
映像の枠を超えた名曲
映画やドラマの主題歌というと、当然ながら映像のイメージに沿ったものになります。
主題歌を聴いただけで、ドラマや映画の一場面が浮かぶというのはよくあることですよね。
役者たちの笑顔、涙、そして素敵なシーン、そんな諸々が心に浮かんできます。
ただ、卓越したソングライターの作る楽曲は、その映像の枠を簡単に超えてしまいます。
この「花の匂い」は、紛れもなくそんな名曲の一つです。
この曲のテーマは、「死=別れ」。
人間として生まれた以上、死から逃れることは出来ません。
「永遠のさよなら」は、誰もが絶対に経験します。
親との別れ、恋人との別れ、配偶者との別れ、子供との別れ、友人との別れ、大切なペットとの別れ、誰もが逃れることなく、必ず経験しなければならない「死」をテーマにしているんですね。
涙なくしては聴けない
届けたい 届けたい
届くはずのない言葉だとしても
あなたに届けたい
「ありがとう」「さよなら」
言葉では言い尽くせないけど
この胸に溢れている
出典: 花の匂い/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
心に響く言葉の数々
ピアノの静かな伴奏の中で響く、桜井和寿のボーカル。
ため息が出るほど美しい歌い出しです。
聴きながら、だれかとの永遠の別れを思えば、もう涙が出てしまうほど。
これは、「歌唱力の素晴らしさ」とただ一言で片づけられないレベル。
というのも「歌唱力」という言葉通り、技巧の意味で言えば、おそらく彼よりも上にいるシンガーは確かに存在すると思います。
しかし彼には、それ以上の圧倒的な力があるんですね。
説得力というのか、表現力というのか、いい言葉が見つかりませんが、いつの間にか彼の言葉に耳を傾けてしまう不思議な力。
これが「言霊」というものなのかもしれません。
「ありがとう」、「さよなら」という単純な挨拶の言葉。
でも飾り気のないこの言葉が彼の手にかかると切ないほど心に響いてきます。
では早速、PVをお届けします。
うさぎの家族が戦争に巻き込まれてしまうというストーリー。Mr.ChildrenのPVは常にクオリティが高く、歌の世界を素敵に表現してくれています。
悲しみの涙が幸せの種を育てる
必ず幸せはやってくる
この曲のテーマは「死=別れ」なのですが、悲しい現実でもそれを肯定して、踏み出そうというポジティブな歌でもあります。
次の一節は、映画の状況を描きながら、苦しみもがいている人すべてに訴えかけているフレーズですね。
どんな悲劇に埋もれた場所にでも
幸せの種は必ず植わってる
こぼれ落ちた涙が如雨露一杯になったら
その種に水を撒こう
出典: 花の匂い/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
「幸せの種」に撒く水は、如雨露(じょうろ)をいっぱいにするほどのこぼれ落ちた涙。
悲しみ、苦しみが、幸せの種を育てるという深い言葉です。
美しいメロディーが強調されるこの歌ですが、それを引き立てるのは、言うまでもなく小林武史のアレンジ。
サビのマーチング調のドラムのカットイン、そしてこの部分の8ビートのリズムパターン。
後ろを流れるストリングスの美しさ。
どれをとっても文句のつけようがない素晴らしさです。