冒頭の歌詞に戻りましょう。
「あなた」を失った彼女は、夜道をふらふらと彷徨います。
「あなた」を失った直後なのか、失ってから長い時間が経った後なのか。
この部分だけみても、詳しい時間の経過まではわかりません。
ただ、無理をしている様子から見ると、まだ失恋から立ち直れていないことはわかります。
そして、月明かりの下で今まで吸ったことのなかった煙草を一本吸ってみます。
どこか罪悪感を楽しみながら、煙草を嗜む女性。
この行動の真意はこの後にわかります。
煙を吸う=「あなた」の受容
あなたの好きな煙草
わたしより好きな煙草
出典: 染まるよ/作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子
ここで「あなた」を想起します。
「あなた」は煙草が好きでした。ヘビースモーカーだったのでしょうか。
「あなた」の煙草に対する愛は相当大きいものです。
それは彼女が「わたしよりも好きなのかな…」と思うくらいに深いものでした。
前の場面を思い出してみましょう。
一緒にいるときは煙草を忌々しく思っていた。
そんな煙草を自分で吸ってみようとするのです。
悲しい過去を忘れようとするのではなく、改めて「あなた」のことを受容しようという試みにも見えます。
これは彼女にとって大事な行為なのかもしれません。
煙と共に流れる涙
いつだって そばにいたかった
分かりたかった 満たしたかった
プカ プカ プカ プカ
煙が目に染みるよ 苦くて黒く染まるよ
出典: 染まるよ/作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子
女性は、煙草を吸いながら「あなた」の姿を思い出していきます。
いつだって「あなた」のことを理解したかった。
そして、満たしてあげたかった。
でも、それは叶わなかったのです。
「あなた」のことを理解できないまま、別れの時が訪れてしまった。
だからこそ、初めて煙草を吸うことで「あなた」を理解しようとしているのでしょう。
一緒にいるときにはわからなかった「あなた」を、わかろうとしているのです。
煙があたりに舞います。
目からは、自然と涙が溢れる。
その涙を、煙が目に染みた、という歌詞で表現しているのではないでしょうか。
直接は描写せずに、物を使って間接的に情景・心情を描写する。そんなテクニックも詩の魅力です。
後悔と煙と夜明け
真っ白な息が止まる
真っ黒な夜とわたし
いつだって そばにいれたら
変われたかな マシだったかな
プカ プカ プカ プカ
煙が目に染みても 暗くても夜は明ける
出典: 染まるよ/作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子
一番最初に紹介した歌詞の後の部分です。
真っ暗な夜、煙草によって黒く染まる女性。
そして、後悔の念が女性の心に立ちこめます。
もっと一緒にいたら、もっと強い自分になっていたかもしれない。
「あなた」の存在がいかに重要だったか、ということを回想します。
ここまでは「あなた」の面影に縋っている女性の姿が描写されています。
しかし、この場面で変わり始めます。
まだ女性の目には涙が伝っている。
しかし、涙が出ても、そして今は暗闇に包まれていても、夜は必ず明ける。
今は悲しみに暮れているけど、いつか私は立ち上がることができる。
そんなことが2番の歌詞において暗示されている。
そして、もっとも重要な場面、Cメロに突入していきます。
決別と新生の朝焼け
「煙」が象徴するのものは?
最後の部分に入る前に「煙」が象徴するものが何かを確認しましょう。
煙とは、ゆっくりとたゆたい、形は常に変わり、そして掴むことができない。
これはまさに「理解しようとしてもできなかったあなた」を象徴しています。
形が常に変わって、掴もうと思っても掴めない。
そして、いつの間にか消えてしまった。
まさに「あなた」の姿と同一視できるのです。
「正しさ」との決別
あなたのくれた言葉
正しく色褪せない
でも もう いら ない
出典: 染まるよ/作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子