食べ物を味わうように堪能したいものは「ふしだらな経験」。
ここではモバイル端末に依存している皆さんの欲望を、椎名林檎さんが代弁しているかたちです。
隙あらばスマホを触ろうとする人は、より過激なことを経験したいはず。
なぜならありきたりなネット情報に疲れているから。そんなイメージです。
また、「あわよくば」という言葉から人間のリアルな欲が垣間見えます。
社会に出ているときにはおくびにも出さない本性。
しかしスマホやパソコンの前では人は正直なものです。
欲しい。見たい。知りたい。
色々な欲求を電子媒体は満たしてくれます。
検索欄に要望を打ち込めば答えがすぐに出る世界。
スマホに声をかければAIが何でも教えてくれます。
そんな便利な代物に慣れてしまった私たち。
今やそれを手放すことはできません。
それどころかあらゆる刺激に慣れてしまっています。
だからこそ、「もっともっと」と手を伸ばすのです。
一見、ふしだらなことだけを歌っているように思えるこの歌詞。
しかしそれも含めて、人間の持つすべての欲や醜さを暴いているようにも捉えられます。
不公平な現代社会を生き抜く方法はある?
不平等の法則
直ぐ美味しく 凄く美味しく
贅沢か質素か…世論の骨子だ
思いっ切り遊んでは食べては
目を閉じていたい気持ち良く
好都合な因子を社会が見出す
序列に屈する民宇宙に屈する
不公平で当然平等なんて強弁
出典: 選ばれざる国民/作詞:椎名林檎 作曲:浮雲
娯楽や買い物などのお楽しみ。
快楽の中には手っ取り早く得られるものもあれば、時間はかかっても満足度が高いものもあります。
満足度が高ければその分お金が必要になりますが、値段が安くてもそれなりにお得なものも存在するわけです。
顧客側のニーズを巧みに読み解くことで、経済は回っています。
要望をネットに上げると、ビッグデータとして収集され、望みどおりに提供されるということ。
このような流れで、ピラミッド型の階層構造ができあがります。
自堕落に快楽を求めるだけでは、ヒエラルキーの下層に位置することになるわけです。
需要と供給のバランスで、与えるよりも受け取るほうが多ければ、階級は下になるということ。
誰もが同じ分だけ与え、受け取る。
そんなことはあり得ない為、不公平で不平等なのは当たり前という話になっています。
また、この歌詞では世間の価値観へ懐疑的な目線を向けています。
贅沢や質素という言葉は、あくまで主観的なもの。
大衆の価値観である世論は、メディアなどによって大きく左右されます。
あたかも大衆の民意が正しいかのような空気が漂う世間。
しかし実際のところ、正解はありません。
それぞれがいいと思うことをやればいいじゃないか。
社会は都合の良いものを受け入れ、都合の悪いものは排除します。
だからこそ、「大衆受けばかりを求められるのはおかしい!」
そんな彼らの想いが込められているようにも捉えられます。
しかしそんなコンテンツが売れるのは事実。
それは東京事変のメンバーは100も承知していることでしょう。
「平等」という甘い言葉に目をくらまされる民衆。
しかし実際、そんなものはまやかしで必ず格差は存在します。
それでも、それを言ってしまえば社会にとっては「不都合な因子」となるでしょう。
ここの歌詞では、このような世間の在り方に、警鐘を鳴らしているようにも解釈できます。
再始動の意味
正しい行い 均しい扱い
険しい商い 約しい暮し
間違い裁け 出る杭潰せ
噂飛び交う 嚏に戦慄く
アリバイの嘘を捜し論う
私は誰?
人生の本番 始まんない
一向に緞帳が上がんない
一生を訓練で終えるんだ
一人ぼっち そう完全に
いよいよ冷え込んで妙に
人恋しい一寸リスタート
出典: 選ばれざる国民/作詞:椎名林檎 作曲:浮雲
欲望過多のあまり、情報を求め、モバイルに依存する流れ。
そんな不特定多数のネット民の声が代弁されています。
自分は間違ったことをしていないのだから、平等に見なしてほしい。
とんでもないお金儲けをする人がいるから、自分は質素な暮らしになる。
誤った正義を振りかざし、実績の伴う目立つ人を攻撃するわけですね。
事実に基づかない話を鵜呑みにすることもあり、正当な反論にもとやかく口を出す始末。
匿名でも情報を拡散できてしまう為、素性もわからない誰かにすぎないのに。そんな話です。
下層階級の人々はいつまでも人生劇場の舞台裏にいるような気分なのかもしれません。
こうして孤独感が極まり、誰かと群れたくなって再始動するという流れになっています。
椎名林檎さんから見た「ネット民」。
その対比もありつつ、椎名林檎さん自身が東京事変を再生させた動機のようにも受け取れます。
もしかしたら桑田佳祐さんがバンド活動とソロ活動で方向性を使い分けるのに似ているかもしれません。
「真夏の果実」はサザンオールスターズ、「ヨシ子さん」はソロ。
桑田佳祐さんは椎名林檎さんと逆のパターンになっています。
経済的な意味でも「大衆性」が求められる場合と、音楽家として「自由な表現」を追求する場合の使い分け。
売れる曲を作るという正しいことばかりしていても、音楽家としての本領は発揮できません。
ソロ活動も寂しくなってきたので、東京事変というバンドを再生させた。
そうイメージすることもできます。
東京事変の再生こそが、不公平な現代社会を生き抜く為の椎名林檎さんなりの方法論なのかもしれません。
迎え入れる身分とは?
相乗効果に導かれるもの
元は無関係 人混み篩い分け
共犯関係 突止めるシナジー
羞らいの距離 目線で招いて
新触感の スイートスポット
出典: 選ばれざる国民/作詞:椎名林檎 作曲:浮雲
ネット上のバーチャルな人間関係を引き合いに出して、現代社会の問題点を浮き彫りにした椎名林檎さん。
それは何の為かというと、東京事変を再生させる動機の1つでもあるから。
そう解釈することもできそうです。
東京事変の5人のメンバーはそれぞれ別に音楽活動をしていました。
個々に様々な人間関係があるなかで同志となり、5人ならではの相乗効果に確信を抱いたのでしょう。
いったん解散して遠慮がちな距離感のときもあったのかもしれません。
それでも再集結。欲望過多の方々に新たな衝撃を与える音楽をお届けする。
それこそ東京事変が再生した意義ではないでしょうか。
何を喰らわすの?
すべからくワンクリック
ワンタッチワンチャンス
清らなエクスペリエンス
遂に 鳴呼喰らわせたい
出典: 選ばれざる国民/作詞:椎名林檎 作曲:浮雲
これまでモバイルを握りしめがちな人々が渇望していたのは「ふしだらな経験」でした。
そんな皆さんにとうとう「純粋な経験」を浴びせたいと語っています。
つまり、再生した東京事変によるこの曲をお見舞いするというわけです。
ようやくメインストリーム(主流)で純粋に音楽性のみを追求する機会が訪れたのではないでしょうか。
今までの歌詞には社会の風刺と思われるフレーズが盛りだくさんでした。
そしてここではついに「喰らわす」という言葉が登場。
これは東京事変の快進撃の始まりを意味しているように思えますね。
刺激を求めてさまよう民衆。
「だったらこれはどうだ!」
といわんばかりの東京事変のメンバーの声が聞こえてきそうです。