「私馬鹿な子なのどこにも行かないで」
濁った正体の鈍い目を覚ませ
夜のうち片付けたおもちゃ
無邪気なままでまだいたかった
出典: YELLOW/作詞:神山羊 作曲:神山羊
2行目、「濁った~」は主人公の中に眠る本能です。
「親から虐待されていた」という状況を踏まえて考えれば、これは親への反抗を意味します。
そうなると意味深なのが3行目。
前述したフレーズでは主人公から見た親の姿を人形に例えていましたね。
つまりおもちゃとは木製人形のこと。それを片付けた、ということは…?
主人公はとうとう自分の手で親を殺めてしまったのではないでしょうか。
となれば1行目のセリフは親をひきつけるための嘘でしょう。
純粋なフリをして親に近づき、一気に片付ける。
一連の作業を終えた主人公は達成感を味わうより先に虚無感に襲われているのかもしれません。
この時点では親を殺した事実よりも、自分の手を汚してしまったことへの想いの方が強いようです。
違う目線で語る誰か
まるで他人事?
あいつは好奇心に殺されたようだ
狡猾な術なら試したんだ
うだつの上がらないあんな行為
満面の笑みで歌ってたんだ
出典: YELLOW/作詞:神山羊 作曲:神山羊
ここは冒頭のフレーズととてもよく似ていますね。
しかし先程は主人公目線で捉えられた描写が、ここでは主人公以外の目線で語られているように見えるのです。
ではこれは誰の目線なのか。
親を殺めてしまった主人公が本能的に行動したことを考えると、これは内に眠る主人公の理性だと考えられます。
虐待から逃れるための殺人は、主人公にとっての正当防衛かもしれません。
しかしその行動に及んだ主人公にはもはや正当防衛という気持ちなどなかったでしょう。
その証拠に4行目、主人公は親を殺めたとき笑っていたのです。
これまでの歌詞からは、主人公が抱く好奇心が「虐待する親のいない生活」に向いていたのだとわかります。
しかし実際には「人を殺める」というその行為自体への好奇心だった可能性があるのです。
だからこそ笑い、さらには楽しそうに歌まで歌っていました。
この楽曲が持つ怪しげな雰囲気は、興味本位で人を殺めてしまう主人公の狂気故だったのかもしれませんね。
いつもと同じ行動も
クローゼットで待った今日は
一人で待つのならこんなもんか
変わるのさ、終わるのさ、肯定
出典: YELLOW/作詞:神山羊 作曲:神山羊
まだ主人公の中に眠る理性が歌っているようです。
1-2行目は、親を殺めてしまう前の自分の行動を再現しているのでしょう。
これまでは自らの意思と関係なく閉じこめられていた空間も、違った感覚で眺めています。
虐待の相手がいなくなったのであれば、もう少し明るく楽しそうにしていても不思議ではありません。
しかしここで描かれている主人公はとても冷静で、感情を失っているようにも見えるのです。
その理由はこの先で綴られていますが、伏線とも取れるのが3行目の歌詞。
「肯定」とは虐待から逃げるために親を殺めたことに対する気持ちでしょう。
しかしそれがここから「変わる」こと、そして「終わる」ことが示唆されているのです。
親がいなくなっても訪れない平穏。ここから主人公の転落が始まります。
不意に訪れる後悔の念
夏に願うことは
愛情はhighただ捨て置くばかり
剥がれ落ちた大事な記憶
but 後悔low-lifeならば敢えて
ありえないことを願う夏を
出典: YELLOW/作詞:神山羊 作曲:神山羊
親から虐待されていた日々を思い出しています。
苦しかったはずなのに、なぜかいま振り返ってみるとそこに大きな愛を見出すことができました。
親から虐待されていた日々も、いまとなっては懐かしく感じているのかもしれません。
しかし親がいなくなったことで、続くはずだった未来は失われました。
2行目は主人公の行為で失われた親との未来を意味しているのでしょう。
主人公は自分がやってしまったことを後悔していました。
それは「low-life」、つまり犯罪者になってしまったことへの後悔。
そしてもう1つ、親を殺めたことで一生会えなくなってしまったことへの後悔です。
つまり虐待を受けながらも、知らぬ間に主人公は親の愛を受け取っていたということ。
そしてそれに気がついたいま、その行為を深く後悔しているということでしょう。
どんなに後悔しても時は戻りません。それでも主人公は願っています。
親が生きていた頃に戻れたら…。親が生き返ってくれたら…。
不可能とわかりながらも、ただただ親の愛を求め続けてしまうのです。
後悔し、愛を求めた理由
主人公がここまでして親の愛情を求めた理由。
それは前半に登場したこのフレーズに込められていたのではないでしょうか。