「甘いワナ~Paint It, Black」が描くもの

宇多田ヒカル、早熟の天才に驚く

宇多田ヒカル【甘いワナ~Paint It, Black】歌詞徹底解釈!まるで「ワナ」みたいな恋って?の画像

1999年3月10日発表、宇多田ヒカルの衝撃のデビュー・アルバムFirst Love」。

このアルバムに収録された楽曲甘いワナ~Paint It, Black」の歌詞を徹底解説いたします。

800万枚以上の大ヒットを記録したデビュー・アルバムに収められた曲なのでご存じの方は多いはずです。

不思議なシンセ・サウンドが不気味に鳴り響いた後にR&Bサウンドに乗せてドラマが歌われます。

おかしな恋愛相手に深くハマってゆく女性の姿を描きました。

女性とはいえ宇多田ヒカルは当時まだ15歳です。

少女が危険な香りがする恋愛に深くのめり込んでゆく物語でもあります。

15歳でこれほどの語彙が豊富な歌詞を描いたのも天才ですし、本格的なR&Bに歌詞を乗せたのも奇跡。

おそろしい15歳の出現はその後のJ-POPの行方を決定的に変革しました。

今なお日本の、あるいは世界の歌姫として活躍する彼女。

その彼女の原点を探ってゆきましょう。

それでは実際の歌詞をご覧ください。

少女に何があったのか

街中での目線に少女性を見る

宇多田ヒカル【甘いワナ~Paint It, Black】歌詞徹底解釈!まるで「ワナ」みたいな恋って?の画像

街で偶然会う度に
深まっていった疑惑
行く先々に現れる変なヤツ
いつもあぶないことばかりしてるから
どうしても気になっちゃう
love trap

出典: 甘いワナ~Paint It, Black/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル

宇多田ヒカルという少女に何があったのか色々と空想をさせる歌い出しです。

街中では色々な人とすれ違います。

しかし、すれ違うだけの人の顔を覚えたりはしません。

ただし、少年少女の頃はもっと様々なことに興味津々で街に出れば色々な方角や人を見ました

宇多田ヒカルのこの歌詞にはやはりどこか少女の性質のようなものが前提になっているようです。

また、宇多田ヒカルの観察眼の鋭さというのも当然の前提でしょう。

敏感な彼女は街で出会う不思議な男性に目を留めます。

この男性はいつもどこか危なっかしい魅力を醸しているのです。

毎度たまたま出会ってしまうのですが、それが本当に偶然なのかを彼女は疑います。

彼女を先回りしているような雰囲気さえある怪しい男性。

あまりお近づきにならない方がいいとアドバイスしたいのですが歌の中でのお話です。

リスナーの優しい忠告をシンガーは聴いてくれません。

この男性がしている危険なことの実際は明示されないのです。

そのためリスナーは想像力の羽を広げるしかありません。

いつも他人の気を惹くために目立ったことをしているのでしょう。

なぜこの人とばかり遭遇するのだろうと彼女が考えだしたらそれが罠です。

あるいは自分と何かしらの運命がある男性なのではなどと少女の期待は危険に膨らみます。

少女を手玉に取る男性

大人の女性シンガーとして消費される

宇多田ヒカル【甘いワナ~Paint It, Black】歌詞徹底解釈!まるで「ワナ」みたいな恋って?の画像

身動き取れない程
愛されて・惑わされて
足元すくわれそうに流されて
捕らえられてしまった

出典: 甘いワナ~Paint It, Black/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル

話は一瞬にして進んでいます。

男性にとってあどけない少女を口説き落とすのは造作のないことでしょう。

口八丁手八丁、あの手この手で口説き落としてしまったようです。

あまりこの男性に肩入れできないのは宇多田ヒカルが当時15歳の少女だったからでしょうか。

しかし、それまでに大人の愛を知らないような少女にとっては初めての経験がたくさん逢ったのでしょう。

愛されているという自覚に酔ううちに深い関係を続けてしまうのです。

世の中には本当に悪い男たちがいます。

少女を弄ぶのなどお手の物、その上さらに少女を食い物にするような連中です。

子どもは知らない大人についていってはいけません。

しかし宇多田ヒカルは若さこそ驚愕されましたが、登場してすぐに大人の愛を歌い出します。

当時のリスナーはその大人の愛の物語の説得力に飼い馴らされたように彼女の少女性を忘却するのです。

大人の女性シンガーと同様の消費のされ方をしました。

それは15歳の少女が創り出したとは思えないほど本格的なR&Bサウンドに包まれていたからです。

気付いたときには宇多田ヒカル自身が仕掛けた甘い罠に私たちはハマってしまいました。

揺れ動く世代の淡い恋ではなく、R&Bの伝統に沿った肉感的な愛の物語をリスナーは楽しみます。

宇多田ヒカルが起こしたマジックは大人のリスナーが惑わされるものでした。

この曲「甘いワナ~Paint It, Black」とは主従関係が逆の現象が呼び起こされたのです。

若さゆえの反抗心

それでも若いとはいわせない

宇多田ヒカル【甘いワナ~Paint It, Black】歌詞徹底解釈!まるで「ワナ」みたいな恋って?の画像

甘いワナにはまってしまった私
かなりヤバイ状態になってる
甘いワナ・柔らかいだけじゃない
浅い・若い なんて言わせない

出典: 甘いワナ~Paint It, Black/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル

親御さんでしたら卒倒しそうな歌詞です。

そして反逆的で挑発を含んだラインが印象的でしょう。

少女にとって大人の愛そのものが「やばい」と感じられたのかもしれません。

本当に「やばい」ことはもっと世の中にあふれています。

犯罪に巻き込まれているなどの「やばい」状況ではないのです。

その点でこの曲の歌詞にはどこか少女固有の触れやすさを感じてしまうでしょう。

少女が本当に大人になって振り返ったときには笑い話に変わるだろうあどけなさもあります。

しかし少女の目線に立つとこの恋は一大事であることに変わりはありません。

男性は最初から少女を口説き落とすことを狙っていたとこの辺りで確信します。

今になって男性の罠にハマった彼女は、まだ若すぎることを大人たちに指摘されることに反抗を始める。

R&Bでありながらローリング・ストーンズの名曲のタイトル「黒くぬれ」を副題に据えたのもその証です。

大人たちの無理解に反逆したい歳頃であり、なおかつ大人の愛を知ったばかり。

彼女はいつの間にかハマってしまった恋愛ですが、若いと詰られるのは我慢ならないのです。

背伸びしたい歳頃だからこそハマってしまった甘い罠。

どう決着つけるかは自分で決めたいとも思っているのでしょう。

シリアスになるのは反則