燻る自分を見つめ直すあいみょんのパワーソング
一見どこにでもいそうな、普通の女の子。
しかし、ギターを手にした彼女がひとたび歌えば、誰もがその力強い歌声に思わず足を止めます。
あいみょんは、そんなアーティストではないでしょうか。
どこか切ない感じもあって、でも励ましてもくれる楽曲が多いのも特徴だと思います。
【愛を知るまでは】もまた、そんな曲の1つです。
日本テレビ系土曜ドラマ「コントが始まる」の主題歌に選ばれた、11番目のシングルでもあります。
聴けば聴くほどドラマ用に書き下ろしたんじゃないかというほど、ぴったりと合った1曲です。
この曲は、彼女がデビューしてしばらく経った頃に書いたものなんだそうです。
上手くいってるようでそうでないような、燻った気持ちが歌詞に溢れているのが分かります。
誰もが一度は抱えるような気持ちを歌った【愛を知るまでは】の歌詞を、独自に考察していきます。
いつの間にこんなに自信がなくなってしまったのだろう
自分自身が選んで進んだ道なのに、思ったようにはいかないということはよくあります。
あれだけ自信に溢れていたのに、その気持ちがどこへ行ってしまったのか分からなくなる時もです。
【愛を知るまでは】の冒頭では、「こんなはずじゃなかった」と落ち込む様子が歌われています。
自分が選んだ道でも易しいとは限らない
いざ 手のなる方へと
導いたのは 誰でもない自分自身なのに
自信がないよ 笑っちゃうな
もたついている
空気が抜けたままの身体
出典: 愛を知るまでは/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
信じて選んだ道が、自分にとっていつも易しいものであるとは限りません。
引用歌詞の2行目に何か付け加えるとしたらきっと、「何で上手くいかないんだろう」でしょう。
不調の責任を誰かに押しつけたくても、それも難しいと思います。
この道を行くと決心した時はあんなに自信に溢れていたのに、その気持ちも今は、よく分からないのです。
心からも身体からも張りが失われて、何だかモタモタしてしまうのが辛いのです。
これはあいみょん自身が、かつて強く感じていたことだといわれています。
あいみょんは路上ライブなどの下積みをほとんどせずに、アーティストとしての成功を収めました。
もちろん、そこに至るまでの努力はあったはずです。
その賜物だといってしまえば、それまでではあります。
しかし世の中には、デビューすらできない人、できてもなかなか日の目を見ない人もいるわけです。
そういう意味では、ラッキーガールといえなくもないでしょうか。
そんなスタートを切ったために、やはり彼女にも、伸び悩みを感じる時期が訪れてしまったようです。
これは、「コントが始まる」にも通じる流れになっています。
高校の文化祭でコントを演じた高岩春斗と美濃輪潤平は周囲の反応を伺っていたが、その日の学校中の話題をぷよぷよ日本一に輝いた朝吹瞬太にさらわれてしまう。誰からも相手にされなかった春斗たちであったが大学の落研にいたお笑い通の担任・真壁権助からはコントを賞賛され、春斗はそれを契機に進路をお笑い芸人と決め、潤平を相方に誘いお笑いコンビ「マクベス」を結成、5年後には瞬太も合流してトリオ編成となった。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/コントが始まる
「コントが始まる」の主人公・春斗は、コントを褒められたことで芸人となる決心をします。
結成当時は自分たちの面白さを信じ、やる気に満ち溢れていたのでしょう。
ところが現実は思うように進まず、いよいよ解散の危機が目前に迫る…というのが話の流れです。
彼らもまた人生の張りを失いつつあり、失くしかけている自信のありかも分からないのです。
長い人生も中身がないとすぐに終わってしまう
走れど走れど続く
人生という名の死ぬまでのエピソードは
軽いままの身体では
吹き飛ばされて
すぐに終わってしまうな
出典: 愛を知るまでは/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
やる気や自信で満ちていた身体は重かったのに、今は空気が抜けたように軽いです。
人生はいつまでも続くように思えるけど、中身のない状態でも果たしてそうでしょうか。
語るべきエピソードもさほどないまま、一生が終わってしまうのではないでしょうか。
そう感じても、おそらくどうすればいいかはすぐに分からないと思います。
そもそもそんなに簡単に答えが出るような問題なら、誰も悩まずに済むはずです。
自分は空っぽで、このままじゃ薄っぺらい一生を終えるだけになる…。
それが分かっていても解決策を見つけられなくて、自暴自棄になりかけているような印象があります。
誰でも一度は思うこと
あー 誰にもないものを持っていたいのになぁ
無理矢理に抱きしめてた
心を今解いて yeah
出典: 愛を知るまでは/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
こちらのパートの冒頭では、誰もが一度は持つだろう切実な思いが読み取れます。
誰だって、ステレオタイプでいたいわけではないのです。
他の誰とも違う、オリジナルでありたいと思うはずです。
アーティストといった人たちはなおさらそうでしょうし、唯一無二であることが重要なのでしょう。
ただ、頑なに殻に閉じこもるようでは、それも叶わないかもしれません。
自信を失いかけている心を守るように抱いていては、道も閉ざされてしまうような気がします。
硬くなった心を解放するのは、簡単なことではないでしょう。
しかし思い切ってそうできるかどうかに、今後が懸かっているとも思えるのです。