歌い手からアーティストへ
ニコニコ動画で「歌ってみた」を投稿し、その美声や音域の広さで注目されてきたまふまふさん。
YouTubeに活動拠点を移してからは、チャンネル登録者300万人に迫る勢いで走り続けています。
他人の楽曲をカバーすることはもちろん、ボーカロイド曲や自身の歌う曲を作ることにもチャレンジ。
現在はトップアーティストとして、新たな挑戦をし続けています。
そんなまふまふさんの曲は、「言葉に表しにくい、でも誰もが感じていること」がギュッと詰め込まれたもの。
暗く沈んだ感情や、もがいて這い上がりたい希望をまっすぐに表し、多くの人から共感を得ています。
遠のいた天井を見つめる日々

今作が初めての「顔出し」となった「ひともどき」は、モノトーンで構成された映像が印象的です。
その中でもひと際目を引くのは、赤く染められた「リンゴ」。
これはまふまふさん本人がデザインしたものだそうで、深い意味が込められていることがわかります。
気まぐれに鳴り出す君のせいで
笑いたい日々から退場
遠のいた天井に縋ってる
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
主人公が望んでいるのは、「笑いたい日々」。
「笑っていた日々」ではなく、敢えて願望のような形で書かれています。
主人公は今まで、心から笑えるような日々を過ごしたことがありません。
「笑いたい」という気持ちは持っていても、どうせ無理なのだという諦めが含まれているのです。
鳴ったり、鳴らなかったり、「君」のせいで振り回される主人公の世界。
一体この「君」は何を示しているのか、引き続き読み解いてみましょう。
人もどきは今日も息を吸って
笑えない日々だけ観賞
これがボクの人生です
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
タイトルにもなっている「ひともどき」というワード。
人間になりきれない……という意味を持つ、かなり強烈なワードです。
主人公は自分のことを、人間ではないと感じています。
人間なら、こんなに苦しむはずがありません。
人間なら、笑顔が絶えない日々を過ごせるはずです。
苦しみばかりで救いのない日々に、希望を見出す意味でも……。
自分を「人間ではない」と位置付けるしかないのです。
知らずに開いた穴とは
見た目は人間
営利な刃物の深い傷より
知らずに開いた 心の穴が痛いよ
気づいたよ 辞書に名もないような
なり損ないだろう
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
周りの人から見れば、主人公はみんなと変わらない人間に見えるでしょう。
しかし、主人公にとっては紛れもなく、「ひともどき」なのです。
周りに理解もしてもらえない……辞書にも載っていないような状況に置かれた自分。
助けてくれる人は誰もおらず、ただ1人耐えるしかありません。
生まれた時からじわじわと苦しめられてきた心の穴。
致命傷にもならず、死にきれず、ただもがく日々……。
時にそれは、刃物で刺されるよりも辛く、苦しいことなのです。
覚めない夢とは
知ってたまるもんか
人の形で人になれずに
呪って恨んだ世界を
愛してしまった
この心臓が脈打つだけの
覚めない夢を見ている
ボクを ひともどきと呼ぶ
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
ここで登場した、「心臓」というワード。
思い返せば、1つだけ赤く色づいたリンゴは、心臓を指していたのです。
MVを見ると、まるでリンゴが拍動しているかのように大きくなったり、小さくなったり……。
真っ暗な世界で、自分の意思とは裏腹に脈打つ心臓は、胸の奥深くで姿を見ることはできません。
しかしそれは、リンゴのように赤く、血液を巡らせているのでしょう。
紛れもなく「生きている」心臓と、その脈を感じながら死んだように生きる「ボク」。
その対比が、どうしようもない主人公の無気力さをあらわにしています。
しかし、心臓が動き続ける限り、生き続けたいと願わざるを得ません。
こんな生き方しかできなくても、主人公はこの世界を愛しているのです。