当てなく歩は進む
あまりに時は過ぎる
些細な毒など覚えていられない
出典: はるどなり/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
病気が治る兆しがみえないまま、淡々と日々が過ぎていきます。
為す術もなく、無情に時が過ぎてゆく。苦しむあなたと同じくらい主人公にとっても辛い時間でした。
少しくらい嫌なことがあっても、そんなことなど気にしていられないくらいに。
目の前の現実はひどく苦しいものだったのです。
穏やかなひととき
きみをただ見守る
温い体温の隣で
酷い晴天に囚われ
確かな晩翠に見入る
出典: はるどなり/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
つかの間に訪れる、穏やかな時間。
浅い呼吸を吐きながら静かに眠る体温に触れます。
見上げた窓の外には青空が広がっていました。
晴れ渡る空を酷いと歌う理由はなんでしょうか。
きれいな空も、温かな太陽の日差しも、隣にいるあなたに感じさせてあげられない現実。
何の問題もないかのように晴れ渡る空と、狭い病室に居るしかできないあなたの対比です。
主人公には空の晴れやかさが、酷く恨めしく感じられたのでしょう。
同時にあなたを襲った「青天の霹靂」のような運命に対しての嘆きかもしれません。
晩翠は冬枯れの季節になってもなお、緑色の草木の様子を差します。
辛く苦しい運命の中で、必死にその命を燃やして輝き続けているあなたを差す言葉ですね。
あなたの顔をじっと見つめ、確かに生きようとする命の存在を感じていました。
甘い運命とは?
甘い運命は恐ろしい
全てを優しく映してしまうから
出典: はるどなり/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
甘い運命。難解な言葉です。
二人に立ちはだかる運命は辛く過酷なものであり、甘いとは言い難いものでしょう。
そんな運命を恐れる理由。
目に見えるもの全てが優しく、穏やかで慈しみある物に見えるからです。
転じてそれは厳しいもの、恐れるべきものに気付けないことを表しています。
主人公にとっての恐れるべきものは、この先に待っているかもしれない、あなたの隣に居られない未来。
この歌詞にはこんな意味があるのではないでしょうか。
今、あなたの隣に居られる幸せで穏やかな時間。
それが甘い夢のように感じられて、この先の悲劇の可能性を忘れてしまいそうになるのです。
こうして側にいられる時間が永遠に続けばいい。
そんな主人公の切なる願いを表しているのかもしれません。
確かに存在する「命」
あなたの目が泳ぐ
思わず息が止まる
花弁がひとひら窓辺で踊る
優しく手が触れる
少し唇を噛む
昨日よりも深く
誰より近くで
春を舞う姿で呼吸をしていた
出典: はるどなり/作詞:須田景凪 作曲:須田景凪
最後のサビは一番のサビを繰り返しています。
苦しさを隠すあなたを見て、息が詰まりそうになる苦しい時間。
はかなく舞い散る花のように、今日も命の灯火は小さくなっていこうとします。
最後の三行の変化にご注目ください。
限られた時間を大切に思うように、肺に取り込む空気すら愛おしむように、深く息をしています。
残された時、今ある命をしっかりと噛みしめて、誰よりも春を待ちわびている。
未来への希望を胸に、確かに生きようとするあなたの姿です。
そこには確かな生命力が、賢明に生きようとする意志があります。
穏やかな気候の中で、春風に舞い踊る桜の花びらのように。
儚くも美しい、命の輝きがあるのです。
その姿は、誰よりも近くで見ていた主人公の心に強く焼き付いています。
賢明に生きる命の証がここにあるのです。
かけがえのない時を歌う
呼吸の意味
歌詞を一通り見てきました。
儚くも力強い、生きようとする命の物語を感じていただけたでしょうか。
須田景凪の透き通るような高音が、切なさを引き立たせるようですね。
この楽曲において呼吸はとても大きな意味を持っています。
着目すべきは楽曲のテーマである、限られた時間を前にどのように生きるかという点です。
もし、明日世界が滅びるとしたら。あなたはどうしますか?
人生の残り時間はたった24時間しかありません。
残された時間を一秒でも多く楽しもう、噛みしめようとするのではないでしょうか。
その思いを象徴するものが呼吸なのです。
息を吸って吐いて、心臓が動いて血が巡る。それこそが生きている証拠です。
ゆっくりと息を吸うことで自分が生きていることを実感できます。
時間はもうあまり残されていません。そう思うと全てが愛おしく感じられるでしょう。
人は終わりを前にして改めて、当たり前だったことが大切でかけがえのないものだったと気づくのです。
健康な体があり、思いのままいられる自由がある。その有り難さを実感します。
今あるこの瞬間を大切に生きていこう。そう思わせてくれる歌ですね。