「月面歩行」
デビューアルバム『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』に収録
今回ご紹介する曲「月面歩行」は、2012年にリリースされた1stアルバム『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』に収録されています。
このアルバムで、Hello Sleepwalkersは鮮烈なメジャーデビューを飾りました。
デビュー作がチャート上位に来て大ヒット、というわけではありませんでしたが、音楽好き、特にロック好きには彼らの登場は驚きをもって歓迎されました。
ジャンルとしてはオルタナティヴ・ロックの一種になるのでしょうか、なんとも”何系”という形容のつけがたい、独特の音楽を作っていたからです。
個性的なバンド構成
トリプルギター、ツインヴォーカル……
まず、バンド構成からして一風変わっています。
ドラムとベース、これは通常通りですが、なんとギターは3人。ツインギターを通り越してトリプルギギターです。
トリプルギターで有名なIRON MAIDEN(トリプルギターになるのは2000年頃からですが)や、Lynyrd Skynyrdを思い起こしてしまいました。
ギターが3本となると、いったいどれだけハードなギターサウンド主体のヘヴィロックなのか、と思いきやそうでもない。
とても不思議なバランスで、隙間なく音で埋め尽くされているけれどうるさくはないのです。
うまく弾き分けがなされています。
そしてツインヴォーカル。しかも女性と男性です。
メインヴォーカルとコーラス担当やスクリーム担当、ラップ担当というような組み合わせのツインヴォーカルはよく見ますが、そういうわけでもないようです。
どちらもメインヴォーカルをこなし、コーラスもこなします。
主にメインヴォーカルをとるのは男性のシュンタロウですが、そこに時々女性のナルミの声が入ってくることによって、とても新鮮な印象をもたらします。
変わっているけれども、これらはすべて彼らの曲を表現するために必要な要素となっていることを実感せざるを得ないものがあります。
彼らのサウンドは、従来の枠組みにはまらない新しいものだったのです。
「月面歩行」のMV
アルバムのリードトラック
「月面歩行」は、シングル作品ではないのですがアルバム『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』のリードトラックとして、MVが作られています。
リアルな月をバックに演奏する彼ら。
しっかりとした世界観を持っているバンドだ、ということを感じることができますね。
イントロのギターリフから、ちょっとすごい。度肝を抜かれます。
絶妙に弾き分けていて、聴いていてとても心地よくないですか?
これには衝撃を受けましたね。
「月面歩行」の歌詞
ではここからは、「月面歩行」の歌詞を見ていきましょう。
月面の生命体は……。
盗まれたラジオ
退屈な夜明けを待ち受ける闇と不確かな証明
人は手錠された囚人の様だ
辺りに散らばる安売りの愛を集めている
不完全な数式 虚ろな心 未完成の絵画
月面を歩く二つの生命体
奪おうとしてるカーテンコールと希望
月面を歩く二つの生命体
消えようとしてる離れ離れの記憶
月面を歩く二つの生命体
繋いだ配線 アンリアルな設計図
出典: 月面歩行/作詞:シュンタロウ 作曲:シュンタロウ
ラジオは失われ、音の無い、しんと静まり返った世界が広がっています。
闇が支配した夜の世界に、日の光が差し込むことがあるのでしょうか。
夜の静寂は、夜明けさえも不確かなものに思えるようにまで人々を不安にします。
不安にかられた弱き人々は、ぬくもりを求め、愛を求めます。
そばにいてもらうことで自分の存在を、確かめているかのように。
不完全、未完成。そして虚ろ。
どれも不安を掻き立てるような言葉が並んでいます。
完全でない数式は破壊と混乱をもたらし、虚ろになった心は愛を失い、仕上がらなかった絵画はゴミ同然に打ち捨てられます。
この現代社会の暗喩でしょうか。
世界規模、地球規模で見るといろいろなところから綻びが見え始め、そこかしこにしわ寄せがきている現代社会。
まるで心を失くしたかのような人々もあふれています。
弱者は打ち捨てられ、強いものだけがさらに富を蓄える。
月面を歩くのは、私たち人間の想像を超えた何か。
私たちを、その手によって作ったものではないでしょうか。
そして自分たちの作ったものが失敗作だったことを嘆いている。
もっと人というものを完全な存在として作りたかった彼らは、この地球の混沌とした状態に落胆している。
そしてカーテンコール=成功と希望を捨て、人々の記憶を消し、もう一度一から作り直そうとしているのかもしれません。
もしくは、一掃して新しい地球の設計図を描いているのかもしれません。