37年の時を越え

セルフカバーのMV公開

時は2021年6月2日。

松田聖子が自身の青春時代と語る80年代の人気曲【時間の国のアリス】がセルフカバーとしてリリースされました。

オリジナルは1984年5月10日のリリースですから、約37年の時を越えて生まれ変わったことになります。

こちらは2021年のセルフカバー第2弾という位置付けで、4月1日には【青い珊瑚礁】がオンエアされています。

また6月2日同日にはYouTube自身が主演と監督まで務めたMVを公開。

後に触れますが、オープニングでは歌詞とリンクして時計を逆巻きにする演出を見せてくれます。

MVではボーカルはもちろん、ギターベースドラム・キーボードそしてコーラス3人を自身が演じます。

コンサートでのバンドの演奏が恰好よくて憧れていた、という彼女の思いが実を結んだ形です。

コンサートでも定番曲となっているこの曲は時と共に進化を続けているのかもしれません。

最新アレンジとオリジナルを聴き比べてみるのもまた一興ですね。

曲が生まれた背景

松田聖子【時間の国のアリス】歌詞の意味解説!なぜ童話の世界で恋したい?少女のままでいたい心情を読むの画像

作曲者は呉田軽穂となっていますが、これは松任谷由実のペンネームです。

そして作詞者は松田聖子にこれまで数多くの歌詞を提供し、ヒット曲を生み出してきた松本隆。

こちらの豪華な顔ぶれで制作されました。

タイトルからもわかる通り【不思議の国のアリス】を始めとする童話の世界と絡めながら話が進んでいきます。

歌詞の題材としては、その当時提唱されていた「ピーターパン症候群」を抱える男性をモチーフにしています。

といっても病気ではなく、精神的に大人になり切れない青年に対してあてがわれる呼称です。

また該当者は「夢見がち」という特徴も持ち合わせていると考えられます。

聖子本人は郷ひろみとの交際が順調かに見えた時期で、彼の姿を当時は重ね合わせて歌っていたかもしれません。

では準備はいいですか?

おとぎの世界へいざトリップ!

Let’s enjoy the Fairy Tale

異国の寓話

鳶色のほうき星 流れて消えて
街角を客船が通り過ぎるわ

出典: 時間の国のアリス/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂

ほうき星とは彗星のことで、通常の流星と違い滅多に出現するものではありません。

例えばハレー彗星は約76年に一度その姿を見ることができるといいます。

その彗星を最初に登場させるのは開幕早々危険球を投げるピッチャーかと思うほど尋常ならざる状況です。

しかしそれがあたかも当然の如く存在している世界にこれから誘いますよ、という前置きとして成立しています。

更にはそのほうき星が「鳶色」と表現されています。

松本隆の歌詞には何色か想像するのが難しい比喩的な色が度々登場しますが、今回は少し趣きが異なります。

鳶というのはタカの仲間で、真面目な話をすれば茶色い体色をした鳥です。

ですから「鳶色」とは鳶のように茶色っぽい色ということになります。

彗星はその個体によって尾の形状や色にそれぞれ特徴があります。

ですがここでの「鳶色」の彗星というのは、茶色い彗星を探せば物語の彗星を特定できるものではないでしょう。

これはほうき星の尾を引く姿があたかも空飛ぶ鳶のようだね、という描写であると考えられます。

そしてほうき星とはその性質上しばらくの期間空にその姿を留めているもの。

ですから瞬く間に流れて消える流星とはそもそも見え方が全く違います。

そのほうき星を敢えて流星のスピードで流して消すことによってどんな効果が得られるでしょうか?

それを知るにはまず流星の逸話を思い出してみましょう。

流星とは消える前に願いごとをすればそれが叶うとされているもの。

それがほうき星のサイズまで大きくなって流れて消える世界とはどんな世界でしょう?

まずは願いを象徴する流星が大きくより身近なものとなり、願いが簡単に叶ってしまう世界と想像できます。

それからアニメーションのように流れて消えるほうき星は非現実と繋がりやすくなった世界の象徴とも映ります。

つまり最初のフレーズは、現実世界から逸脱するための異世界からの招待状のような役目を果たしているのです。

次のフレーズですが、街の川を客船が周遊する光景は日本ではさほどメジャーではありません。

本場はやはりヨーロッパで、イタリアやオランダなどで見られる客船は街の風物詩とすらいえます。

ヨーロッパ、そこは尖塔を擁する王城や魔女の言い伝えが残るおとぎ話の聖地。

ここでは鑑賞者にかの地を想起させることによって、日本から別世界へのワープを容易にするのが狙いのようです。

寓話の主人公

半袖のセーターを着ているあなたが WOW WOW
三日月に腰かけて指笛吹くの

出典: 時間の国のアリス/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂

まずは半袖のセーターを着た彼。

今でこそ女性用のお洒落着として半袖のセーターは定着していますが、男性が着ていたとなるとどうでしょう?

そこで思い出されるのは、物語のモチーフになったというピーターパン。

その衣装に似せて彼はセーターの袖を破り捨てたのではないでしょうか?

冬着の代表格であるセーターを動きやすいようにと自分でカットして悪戯を始める彼はピーターパンさながら。

更に三日月に腰かけ得意げな様子は、闊達で気ままな性格と、彼がおとぎの国の住人であることを印象付けます。

若返りの魔法

魔法の時計逆にまわせば
赤いリボンとビーズの指輪

出典: 時間の国のアリス/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂

この時計は、まわした通りに時間も動くという魔法がかかっているのでしょう。

例えばゆっくりまわせば時間もゆっくり進む、という具合に。

そしてここでは時計を逆にまわすのですが、そうすると時間を逆方向に進めることになります。

ですがどこまで時間を戻すつもりなのでしょうか?

その答えとなっているのが次のフレーズで、少女向けのお洒落道具が登場します。

先程彼は永遠の少年を象徴するピーターパンに扮していました。

彼女も同様に少女へと逆戻りし、リボンや指輪で着飾っておとぎの世界をエンジョイしたくなったのですね。