第8位 「誓い」
アルバム「初恋」収録曲ですが後にシングル曲のカップリングとしてもリカットされます。
それだけ宇多田ヒカルにとって歌う価値のある曲なのでしょう。
淡々としたピアノのコードストロークに様々な音がするストリングス・アレンジを彼女自身が加えています。
カラオケなど私たちが歌うには中々の難易度を誇る歌です。
歌詞はプロポーズで永遠の愛を「誓う」男性の心理から書き起こします。
「誓い」というタイトルの曲は他のアーティストにもあるもの。
アーティストにとって永遠の愛の「誓い」というものは是が非でも歌いたいテーマなのでしょう。
宇多田ヒカルの「誓い」を他のアーティストと区別するのは「約束」と「誓い」を峻別する点。
他のアーティストはうっかり「君に約束するよ」と歌ってしまいそうな場面。
宇多田ヒカルは「約束」よりも「誓い」に重きを置くのです。
歌詞を見ていきましょう。
人と交わす「約束」よりも神と交わす「誓い」を
約束はもうしない
そんなの誰かを喜ばすためのもの
今言うことは受け売りなんかじゃない
約束でもない 誓いだよ
嘘つきだった僕には戻れない
朝日色の指輪にしよう
胸の高鳴りを重ねて踊ろうよ
今を生きることを祝おうよ
出典: 誓い/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
「約束」と「誓い」に重さの上で区別を設ける。
これが宇多田ヒカルの人生哲学の一片です。
「約束」では軽すぎると感じる「僕」の「君」への想い。
それは人間同士の「約束」と神を前にしての「誓い」では重さがまるで違うのだという人生哲学です。
こうした視点はそれなりに人生をくぐり抜けていないと到達できない心境でしょう。
リスナーはそのことに気付くと思わずはっとさせられるはずです。
彼女が歌い直しを行ったこともよく分かる重さがある歌。
この曲を第8位に推します。
第7位 「真夏の通り雨」
2016年4月15日発表、宇多田ヒカルの通算5作目の配信限定シングル。
シングル曲としては長い5分38秒の作品です。
あふれ出る言葉たちを抑えきれなかったのか歌詞のボリュームも中々のもの。
ピアノの響きがこれまた美しすぎてリスナーは落ち着いた気分になります。
力強いビートが絡むかと思えば、またピアノのコードストロークが打ち下ろされる。
重厚なストリングスが聴覚を覆います。
あらゆる楽器を駆使して歌詞の世界を再現するのです。
歌詞を見ていきましょう。
美しいさようなら
思い出たちがふいに私を
乱暴に掴んで離さない
愛してます 尚も深く
降り止まぬ 真夏の通り雨
夢の途中で目を覚まし
瞼閉じても戻れない
さっきまであなたがいた未来
たずねて 明日へ
ずっと止まない止まない雨に
ずっと癒えない癒えない渇き
出典: 真夏の通り雨/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
ラストのラインをご覧ください。
さよならの意味を自分自身に問い続けている女性の姿。
美しい別れをしたいという想いが彼女にはあります。
宇多田ヒカルの歌詞はいつも恋愛を歌い継いできました。
人間にとっていちばん大切なものは愛だという確信が彼女のアーティストとしての基軸になっています。
第6位 「桜流し」
2012年11月17日発表、宇多田ヒカルの通算3作目の配信限定シングル。
庵野秀明監督より直々にオファーがあり宇多田ヒカルが描き下ろしました。
ピアノの旋律があまりにも美しすぎる曲です。
タイトルや歌詞は桜をモチーフにしています。
最初こそシンプルなピアノ・サウンド。
徐々に乱れ打たれるドラムが響き始める辺りで曲の印象が変わります。
もっと壮大なテーマが隠されているとリスナーは気付かされるのです。
歌詞を見ていきましょう。
歌詞の世界に入り込みたい
もう二度と会えないなんて信じられない
まだ何も伝えてない
まだ何も伝えてない
開いたばかりの花が散るのを
見ていた木立の遣る瀬無きかな
どんなに怖くたって目を逸らさないよ
全ての終わりに愛があるなら
出典: 桜流し/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル ポール・カーター
ラストのラインが非常に意味深です。
人は終わりにおいて愛を識る。
実際の恋愛でも感じることがある感覚です。
しかしここでテーマとしている愛はもっと大きなものかもしれません。
宇多田ヒカルの歌詞は共感しやすく易しい言葉で紡がれます。
それでもときにテーマが広く大きなものになるとさすがに解釈が難しくなるのです。
リスナーは素直に目に浮かぶような桜の情景に想いを伸ばしてみるといいでしょう。
ときが移ろいゆく中で変わりゆく人間関係に想いを浸して自分自身を投影してみる。
歌詞は考えるものだけでなく経験を分け合うものでもあるので感じることを大事にしてください。