「頑固者=安保改定という変化に反対する学生たち」とするとこんな風に解釈できます。

<学生たちは変わらないことで

 未来の夢を手に入れようとしている。

 一方政府は、安保改定の調印をして

 未来の夢を手に入れようとしている。

 時を止めて、今の平和がこれからも

 永遠に続くことを確定させるために。

 だとしたら、学生も政府も同じ夢を見て、

 同じように時の流れを

 止めようとしているのではないか。>

 こう読みとってみると、平和と幸福を求める気持ちは同じなのに、激しく争う安保闘争のむなしさを表現している歌詞だと感じることができます。

俯瞰する中島みゆき

中島みゆき『世情』の歌詞の意味が深すぎる・・・。○○を見たことから誕生した歌詞の意味を徹底解釈!の画像

世の中はとても 臆病な猫だから
他愛のない嘘を いつも ついている

包帯のような 嘘を 見破ることで
学者は 世間を 見たような気になる

シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を 流れに求めて

時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため

出典: 世情/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき

<世の中はとても臆病で、

 自分を守るために他愛のない嘘をつく。

 でもその嘘は、傷を隠して守る包帯のように

 ほどけやすいものだ。

 学者たちはその包帯を自慢げに剥ぎとって、

 「真実を見た」としたり顔をする。>

 安保闘争を全てわかったような顔で説く見識者たちを皮肉る表現ですね。

こうしてみてくると、歌詞の中には「学生」と「政府」と「学者」という3つの姿が描かれていることがわかります。

そしてタイトルは『世情』です。世情とは「世間の事情」という意味を持つ言葉。

中島みゆき安保闘争を世間という立場になって俯瞰して眺め、とてもむなしく悲しい争いだと感じた気持ちを歌ったのではないでしょうか。 

もう1つの世界観から「世情」を読み解いてみる

ダイナミックにして壮大な楽曲!では主人公は誰?

「世情」という楽曲。聴いてみれば様々な思いが歌詞から伝わってくるはずです。

確かにその当時は学生運動の真っ盛りです。

若者のエネルギーがこれほど世間に満ち溢れていた時代もないでしょう。

では「世情」に登場する主人公は、世間一般の若者たちなのでしょうか?

この楽曲をじっくり聴くと、その特定が定かではありません。

つまり主人公が不特定なのです。

そこで、「世情」という楽曲をもう1つの世界観で歌詞を紐解きたいと思います。

それは曲の創作者である「中島みゆき」さん、その人として。

中島みゆき自身をこの曲の主人公に据えて、改めて歌詞を解読してみたいと思います。

主人公の生い立ちが浮き彫りにされる学生時代?

主人公は目立たず伏せ目がち、な女性です。

自分をアピールすることなど清水の舞台から飛び降りない限り不可能でしょう。

内気で引っ込み思案。どこにいるのかも分からない控えめな女性だったのです。

しかし、主人公の心の中には豊か過ぎる才能が潜んでいました。

その才能は、主人公の生い立ちと全く関係がないとは言えないでしょう。

勿論、主人公の少女時代を読み取れる個所は歌詞には存在しません。

しかし、歌詞から様々な世界観を読み解く。

そこにこの素晴らしき楽曲を解読していく醍醐味があふれているのです。

東京は主人公にとってどのような場所だったのか?

主人公が抱いた東京と学生のイメージ

1番の歌詞から主人公の思いが切々と伝わってきます。

自分のことを「頑固者」と表現しています。

大学、ましてや日本の首都・東京に腰を据える最高学府。

そこは様々な思考・様式をもつ人たちで埋め尽くされます。

主人公が幼少期を過ごした田舎町とは趣を大きく異にするのは当然なのです。

主人公は東京に「花の都」という郷愁を抱いていたのかもわかりません。

しかし、そこに存在していたのは自身が最も嫌うあるものでした。

それは幼少期から心に刻まれてしまった「恐れ」でした。

途方もない巨大な恐れから誕生した歌詞

1番の歌詞に登場するシュプレヒコール。そして夢。

これこそが主人公の思いを端的に表すキーワードなのです。

主人公が幼少の時から抱いていた恐れ。

それは厳格で絶対権力者だった父親なのです。

しかし、主人公は父親と疎遠な関係だったわけではないでしょう。

恐らく精いっぱいの愛情は注がれたはずです。

でも、幼心に抱いた「父親」という得体のしれない怖さは成人した今でも主人公を支配していたのです。

そこに大学生になって出会った世の中の情景。

社会問題化していた学生運動という異質の恐れ。

そう、この恐怖は幼い時に植え付けられた怖さとどこか同じ匂いがしていたのです。

シュプレヒコールという大衆化した力

そこに幼かった時に刻み込まれた父性への服従に似た感情を覚えたのです。

しかし、主人公は東京という地でシュプレヒコールを傍観することによって何かをみつけました。

その思いが2番の歌詞に紡がれていきます。

シュプレヒコールの実態

恐怖の象徴からの決別