幾度も恋路を重ねてきた主人公だからこそ、初めての恋がいつまでも引っかかっているのでしょうか。
ただただ後悔しているとしか思えない、どこか深く重みがあり考えさせられる歌詞です。
「忘れな草」の花言葉は、「私を忘れないで」といいます。
故郷へ帰り、水の流れを眺めていると「人を慈しむ尊さ」を欠如している自分に気づかされるのです。
おそらく主人公は、想いを寄せる女性に後ろ髪をひかれつつも追い求める夢を優先したのでしょう。
泣く泣く故郷をあとにし、都会へと旅立つのです。
川のほとりに咲く「忘れな草」が、2度と戻らないあの時の記憶をより鮮明に呼び起こすのでしょう。
千曲川を見ると、つい初恋の淡い自分を思い出してしまうのです。
旅に出る理由は?
都会の雑踏の中、主人公は心身ともに疲弊しているのかもしれません。
ポッカリと心に空いた穴を埋めるため、帰郷したともいえます。
わざわざ千曲川が流れる長野県まで旅に出たのでしょう。
主人公は故郷で一体なにをするつもりだったのでしょうか?
都会へ出た意味とは。そこに意義はあったのか。
少年から青年へと成長した男性の心の葛藤も垣間見えます。
自分を見失っている様相の2番
あの雲のように...
明日はいずこか 浮き雲に
煙りたなびく 浅間山
出典: 千曲川/作詞:山口洋子 作曲:猪俣公章
主人公は明日の行く先すら見失っているのでしょうか。
「浮き雲」という言葉が、さ迷う心のあり様を分かりやすく物語っています。
都会に染まってしまった自身の現状に落胆し、旅立つ前の純粋であったあの頃を思い出したいのです。
このままどこへ向かってしまうのか、定まらない自分はまるで雲のようだといっています。
壮大な景色を前にして、もう一度見つめ直そうとしているのです。
遠くにそびえる浅間山が、自分自身に思えたのかもしれません。
鬱そうと雲や霧がかかる浅間山の様相は、都会に染まり曇る心を表しているかのようです。
フワフワとした不安定な主人公を絶妙に表現しています。
届かない想い
呼べどはるかに 都は遠く
秋の風立つ すすきの径よ
出典: 千曲川/作詞:山口洋子 作曲:猪俣公章
都会に夢を追い求め、故郷をあとにした主人公。
もう帰ってはこれないかもしれない、と覚悟を決めて旅立ったはずです。
夢見た先は思い描いていた期待より、程遠い現状の有り様とのギャップに自問自答しているのでしょう。
時刻は、深まる秋の夕暮れどきです。
千曲川のほとりに見渡すかぎり生い茂るすすきの景色。
すすき地帯が大きく立ち塞がり、先の見えない人生の壁に思え重ねあわせたのです。
前へと進もうとすると足を阻むかのごとく、すすきは揺れ動いています。
自身の心の戸惑いを見透かし、あざ笑っているかのようです。
その隙間から微かに見える、往くべき自身の道がうっすらとその彼方に見えたのかもしれません。
目の当たりにする景色に納得せざるを得ない3番
どこからともなく響く音いろ
一人たどれば 草笛の
音いろ哀しき 千曲川
出典: 千曲川/作詞:山口洋子 作曲:猪俣公章
揺れ動くすすきの中をあてもなく、手探りで歩き感傷にひたる主人公の様子が思い浮かびます。
都会に出てから今日まで辿ってきた人生という道を、すすきを掻き分けながら迷い進んでいるのでしょう。
風とすすきの重なる音が綺麗な「音いろ」に聞こえたのです。
その音はとても哀しく、なにかを訴えかけてくるほどよく聞こえてきます。
身も心も憔悴しきっている主人公。
まるで幻聴のようにも聞こえてしまうのかもしれません。
きっと心の奥深くまで突き刺さる音色だったのでしょう。