悲しくなる前に
あなたを忘れちゃわないと
無理なの分かってるの
と夜更けに向かって走った
涙が枯れたらさ
またあなたを思い出すの
触れるか触れないかで
心臓が揺れるよ
抉るような声で
また呼びかけてよ
出典: 悲しくなる前に/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
彼女には仕事があります。
人に誇れるほどではなくても、自分ひとりを支えるくらいは何とかなる収入源であり、自分にとっては大切に思える仕事です。
だから、悲しくなっている場合ではないのです。
弱い女だと思われるわけにはいかないのです。
心が沈み込む前に、夜更けまで、その一日を駆け抜けるのです。
でも、家に帰れば、ひとりになれば、その感情の防波堤は決壊します。
ひとりの冷えた部屋や、散らからない玄関は、悲しみを呼び起こしてしまうのです。
悲しい、悔しい、恋しい、憎らしい。
雑多な感情が波のように押し寄せる夜は、瞼を冷やしながら泣き明かすばかり。
明け方近く、ようやく眠りに落ちるころ、彼女は彼の声を思い出します。
たった一声で心をかき乱す、愛おしい声。
留守電に残るメッセージは、もう何度再生したのでしょうか。
とめどなく流れる
時間に少し反抗して
思い出しては心が戻ってきた
もう少しのとこで
浮かび上がるあなたが
あまりにも愛しくて
たゆたうように気持ちが募って
でも苦しくなって影に目を落とした
出典: 悲しくなる前に/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
恋の痛手は時間が解決してくれるなどと、ひとは知ったような顔をします。
しかし彼女の痛手は、引くどころか炎症を起こし、膿を呼んで腫れ上がるばかり。
瞼の裏に残るあの人の姿は、どれも愛おしいものばかりです。
恨んだはずなのに、憎んだはずなのに。
思い出を美化してしまう脳の機能は、感情をまるで無視して、憎らしいほどに高性能です。
会いたいとは言えない
夜の帳が降りたら私は
何度も忘れたあなたの前で
夜の帳が降りたら私は
泣き笑いしながら名前を呼ぶの
出典: 悲しくなる前に/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
仕事をしていれば、仲の良い友人に会えば、あなたのことを忘れていられるのも事実です。
そのたびに、わたしはやっぱり薄情な人間なんだわ、と驚くほど。
だけど泣き明かすこんな夜は、苦しいほどに会いたくなるのです。
今夜はきっと、会いに行ってしまう。
そんな予感は、彼女の胸に甘い不安を呼びます。
「愛されてたんだよね?」
問いは空を切った
出典: 悲しくなる前に/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
今となっては何もかもが夢のよう。
あなたという存在が確かに自分の隣にいたという確信さえ、保てないのです。
だからこそ聞いてみたい。
「愛されてたんだよね?」
胸を焦がす愛が、本当に合ったことだと、あの甘い記憶は本物だと、あなたの声で聴いてみたいのです。
もうきっと、訪ねることさえ叶わないのだけど。
終わりに
いかがでしたか?
これだけ多くの辛い恋の歌を作って、しかもそのどれもが鮮やかであるだなんて、驚くばかり。
これを才能と呼ぶのでしょうね。
ではまた次回!
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