あの日新宿駅で朝の光が血の海を照らした
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ
相当な混雑が容易に想像できる駅名ですね。
多くの路線が集約する駅は通過列車があまり通らないため列車のスピードが遅く、人身事故が起きにくいとされています。
しかし、人の数は膨大。母数が増えれば考え方も多様です。
さて、「駅」「朝」「血の海」から想像できるのが飛び込み事故です。
列車を移動させ、亡くなった方を移動させても血液は最後まで残ります。
一旦客を駅外に移動させ、綺麗に洗い流してから駅に再入場させるケースもあるのでしょう。
しかし大都市の駅では人の数が多すぎて、入れ替えが難しいのです。
そのため「見せてはいけないもの」だけを急いで除けて、できるだけ早期の復旧を目指します。
朝、まだ太陽はそれほど高い位置まで昇っていません。
それでもまるで空のてっぺんから狙ったかのように血溜まりに光を射し入れます。
「気味が悪い」と考える方も多いはずです。しかし人身事故に慣れた都市部の人は、そうとは限りません。
事故の後によく見る景色。今日は天気が良いなあ、とぼんやり考えるかもしれません。
澄んだ空気が
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ
事故後の清掃が追いついていないことで客が大騒ぎをしていたら、駅の空気は淀みきっているはずです。
この歌詞の描写を見ると、真逆ですね。
つまり、客は皆冷静で、よくある光景だと感じていて、会社に遅刻の連絡を入れているのでしょう。
ある意味、よく訓練された客たちなのです。
私たちは人生経験を経て、人の死やおびただしい血液は人を混乱させ、恐怖に陥れるものだと知っています。
でも、この曲では恐怖に慣れているとも読めますし、恐怖心を無視する術を覚えたとも読み取れるのではないでしょうか。
つまり「直感」を排除した生き方なのです。
残された命の赤い水
人がひとり飛び込んだ
命が蒸発する様
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ
ここで初めて飛び込み事故なのだと分かります。命は助からなかったようですね。
亡骸は既に片づけられ、多くの客の目の前には血の池が広がっています。
肉体を離れた血液はこの世に残る最後の足跡、生きていた証なのかもしれません。
そこに太陽の光が照りつけ、血液から水分が抜けて乾いていきます。
肉体は血液という液体を失い、血液は水分という液体を失い、その液体も空気中に離散する。
次の電車が来るまで、そんな想像をしてしまうのかもしれません。
生きる意識
ただただ平穏無事に生きていこう、と歌っているわけではありません。
生きるつもりで生きる。そんな言葉がよく似合います。
腹が立つけれど理解もできるという矛盾
Survive with your contradicted love
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ
【和訳】
矛盾した愛で生き残れ
【考察】
直感を無視して生きるのは一体何のためなのでしょうか。
例えば、東京で頻繁に起きる人身事故に対して都度大騒ぎをしていたら精神的にやられてしまいます。
それほどまでに東京、あるいは大都市では飛び込みによる自殺が日常と化してしまっているのです。
つまり、自分を守るために直感を無視して生きているといえるでしょう。
しかし、心の奥底には経験値や知識に基づいた恐怖や情のようなものが存在しています。
無視しているだけで、誰の心にも確実に存在しているのです。これこそが矛盾と呼べますね。
また「飛び込み自殺は迷惑だからやめて欲しい」「死ぬならひとりで」という言葉はよく耳にします。
確かに、大混雑している都会の駅やその付近を選ばなくても良いのでは?と感じることはあるでしょう。
一方で、その選択を理解しているのではないでしょうか。
会社に行く途中に死ぬなら飛び込みしかない。衝動的に飛び込めるのは駅。分からなくもない、と思っているのです。
これもまた矛盾ですね。
人身事故で迷惑を被る自分への愛、迷惑をかけることを考えもせずに飛び込んでしまった人への愛という矛盾があります。
人の死と非常に近い場所で生きている人々は、ホームの端っこを歩いているようなものなのでしょう。
ちょっとした力が加われば線路に転落してしまいます。
ちょっとした力を加えれば線路に落ちることができる、ともいえますね。
ですから、選択権は自分が握っているのです。
生きるか死ぬかの瀬戸際で生きる人々は、ただ生きているだけではバランスを崩してしまうかもしれません。
「生き残れ」という言葉通り、意識的に「生きる」という行動を取らなければならないのです。
コースアウトを避けるため
Run away far away
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ
【和訳】
逃げて、遠くに
【考察】
平均台の上を歩く様を想像してください。一歩一歩進みますか?それとも一気に駆け抜けますか?
勢いをつけて走り抜けたほうが案外バランスを崩さずにゴールに辿り着けるのではないでしょうか。
一歩一歩進んでいると、バランスを崩した瞬間「崩した」と強く意識して、焦ります。
もしかすると、グラっとした瞬間に諦めて平均台から飛びおりる人もいるかもしれません。
余計なことを考えないためにも、走り抜けるのが得策ですね。
生と死の瀬戸際を行く人々にも同じことがいえます。
直感を無視できなくなった瞬間に心が揺らいでしまったり、人生という平均台からおりるのは簡単だと思うこともあるでしょう。
そんな余裕を与えない速さで、終わりが見えない駅のホームの向こうまでひたすら走れと歌っています。
生き抜いた先にあるのは……
崖っぷちを駆け抜けて
全速力で気づかないで
出典: 生きろ。/作詞:池貝峻,コムアイ作曲:池貝峻,篠田ミル,杉本亘,コムアイ