「夏という季節は、自分の本当の気持ちを見せてくれるだけでなく、許せる気がする」
この「許せる相手」とは一体誰のことでしょう? 恋人のこと?
いいえ…それはきっと自分自身ではないかと思うのです。
相手に好きと言えないほどにこじらせてしまっているのに、終わらせることもできずにいる優柔不断さ。
その心をしっかり見つめなおし、悔いることができた時、自分を心から許せるのではないでしょうか。
この歌詞でいう「冬」とは季節のことではなく、心の中の様子かもしれません。
今の恋は冷たく凍り付き、溶かそうとしても儚く壊れてしまいそうな状態です。
まるで液体窒素で冷凍され、触れた途端粉々になってしまうバラの花のように。
そんな恋の終わりを決断すべきなのは、ほかならぬ自分です。
夏が自分を変えてくれるのではなく、その力を借りて自分が変わって行こうとする意思が、この部分に読み取れます。
自覚と決意
※
SA・YO・NA・RA さえ言えなくて
見つめ合えば切なくて
ダメなのに とりつくろって
もつれてた二人
SA・YO・NA・RA から始めよう
燃えるよな恋してみよう
変われるさ 出逢えるはずさ
夏を待ちきれなくて
出典: 夏を待ちきれなくて/作詞:前田亘輝 作曲:春畑道哉
ついに「SA・YO・NA・RA」という決定的な言葉が出てきました。
そればかりでなく、現状を真正面から受け止めたことがよく分かる言葉が続きます。
この八方ふさがりから抜け出すにはもう「SA・YO・NA・RA」しかない。でもそれは決してただの終わりじゃない。
そこから全てが始まるんだ、という前向きな捉え方が出来るようになったのですね。
夏の力を借りる云々ではなく、自力で先に進もうという、もっともっと踏み出した意思が感じられます。
つまりこの部分は、最初の方でお話した「夏なのに夏じゃない」的な意味合いが強いわけです。
ところでこの「燃えるよな恋」は、果たして今の恋人と再びという意味なのでしょうか?
来るべき夏への夢想
焼ける夜風も くすぐられる純情
裸のままでいいムード
そうさ 何もかもみんな眩しく目にしむ
あなた次第ためらわずに
出典: 夏を待ちきれなくて/作詞:前田亘輝 作曲:春畑道哉
大人の恋にセクシーな状況はつきものですが、何歳になっても、真剣な恋にはどこか恥じらいがあるような気がします。
ほんのり艶やかな表現の中にも、少年少女のような初々しさが滲むフレーズで、それを見事に表現していますね。
最後の行でやはり、今の恋人と最初からやり直したいのだなというのが伝わってきます。
決意と前進に向ける想い
I love you さえ言えなくて
思い出には出来なくて
無理をして輝いていた
この胸の yesterday
I love you から始めよう
思い出はつくるもの
もう一度 やり直せそう
夏を待ちきれなくて
※繰り返し
出典: 夏を待ちきれなくて/作詞:前田亘輝 作曲:春畑道哉
曲の冒頭と同じ歌詞がリフレインされています。
しかしここまでの自覚と決意を読んできた私たちは、その表現に遠回しな印象を受けることはもうないでしょう。
後半では、本気で前進しようとする心意気がひしひしと伝わってきます。
思い出は過去の様々なことを閉じ込めておくものではなく、これから作り上げ積み上げるもの。
なんとも心に沁みるメッセージだと思いませんか?
新しく作り上げていく思い出のパートナーが、今の相手でありますようにという願いも込められていますね。
しかし「やり直せそう」というところに、相手の気持ちを尊重した部分と、自分でもまだ分からない部分を残しています。
つまり、これは一種の「賭け」ともいえるでしょう。
2行前の「始めよう」に合わせて、韻を踏んでいるところがまた粋な作りになっています。
※の繰り返し部分は、今までの苦い経験を忘れずに前進しようという、明日への高らかな宣言なのだと思います。
季節を言い訳にしない潔さ
「夏を待ちきれない」=「今の自分は、夏が来るのを待ってなんていられないんだ!」
「夏は涙の似合わない、素直になれる季節」→「でも恋の終わりを決めるのは夏そのものじゃなく、自分自身」
それに気づいて「夏を待ってなんていられない!」になるのは、とても潔いと思います。
この曲で「夏」はとても重要なキーワードであるのですが、内容は季節を超えて私達を勇気づけてくれるのではないでしょうか。
自分の心と向き合い、踏み出す勇気
ひとつの恋の終焉は、終わりのようで終わりではありません。
それは次のステージの大切な始まり。
取り繕った挙句にダメになった相手と、もう一度まっさらな気持ちで向かい合うことが出来たなら…。
一度犯した過ちを二度と繰り返さない、成長した心で互いを想い合うことが出来たなら…。
そのカップルには、きっと幸せな未来が待ち構えているはずです。
向かい合った末やっぱりダメだったとしても、そんな勇気を持てた二人には、素敵な恋が再び訪れることでしょう。
そんなことを教えてくれるこの「夏を待ちきれなくて」は、きっといつまでも恋愛、そして人生の応援ソングであり続けると思います。
コード紹介と演奏のワンポイント
コードは次のリンクからご覧ください。