HIP HOPに挑戦、宮本浩次の新時代
ソロならではの取り組み
エレファントカシマシの宮本浩次がソロ活動を始める。
椎名林檎との競演「獣ゆく細道」や東京スカパラダイスオーケストラとの「明日以外すべて燃やせ」。
ここまではコラボレーションの領域でしたのでエレカシ・ファンは思い思いに楽しんだはずです。
ところが2019年2月12日発表の「冬の花」を宮本浩次のソロ名義で発表。
このときは「この曲はなぜエレカシでやらないのだろう?」という疑問符がついて回りました。
「冬の花」はエレファントカシマシの楽曲として取り組んでもなんら違和感のない作風でしたから。
ところが元号が平成から令和へと変わった時期に発表された「解き放て、我らが新時代」。
この曲は宮本浩次のソロ名義で発表する意義を強く意識させてくれます。
その原因を端的にいえばこの曲でのHIP HOPへの挑戦です。
エレファントカシマシでもアルバム「good morning」での打ち込みへのこだわりなどがありました。
しかしそのアプローチは海外のアーティストを引き合いに出すとBECKのような音の紡ぎ方です。
一方で「解き放て、我らが新時代」はHIP HOPそのもの。
宮本浩次は言葉だけで「新時代」を解き放ったのではありません。
自身の音楽をかけて「新時代」に自分自身を解き放って魅せたのです。
これは事件にも匹敵すること。
衝撃的なトラックですが問答無用にリスナーの心を鼓舞します。
アドレナリンが噴出するような感覚。
宮本浩次が解き放つ「新時代」に期待しながらこの曲の歌詞を紐解きます。
曲自体のテーマを宣言
強烈なビート
しばられるな! 解き放て、理想像
胸の奥の宝物 この世で一番大切なモノ
お前の笑顔とオレの魂
出典: 解き放て、我らが新時代/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
歌い出しです。
宮本浩次の強烈なボイスから始まります。
バックトラックがエレファントカシマシのようなバンドサウンドではないことにすぐ気付くはずです。
ビートが重いですが冨永義之のバスドラムではありません。
リズム・マシンによる打ち込みなのかサンプリングを経由したものかまでは分かりかねます。
それでもこのビートと宮本浩次のボーカルの組み合わせはとても新鮮です。
揺らがないものを愛したい
この曲全体を貫いているテーマが一挙に歌われます。
古くからの習慣やしきたりに常識。
そういったものを新時代にまで持ち越すのはよそう。
自分自身を解放したその先に胸の底に遺るものはシンプルなもの。
愛する「お前」が笑っている姿、そして「オレ」をオレにさせている精神や情欲の塊だ。
サウンド・プロダクションこそ新しいですが主張自体はいつもの宮本浩次であり安心します。
新時代を体現すること
ロック・ミュージシャンと新しい音楽
宮本浩次がどこまで平成から令和への改元を意識したのかは分かりません。
日本社会固有の現象で改元が行われると先行する時代は一度収束される印象を持ちます。
ただしこれは錯覚です。
平成の時代から続く政治経済の問題は改元してもリセットされることはありません。
しかし改元によってより良い社会を作ってゆこうという積極的な意志が芽生えるのは悪いことではないはず。
宮本浩次はその新時代をHIP HOPで幕開けさせました。
ロック・ミュージックは今やHIP HOPの浸透に押されてオールド・スクールのような扱いにされています。
根っからのロック・ミュージシャン・宮本浩次ですが新時代を迎えるにあたって選んだのはHIP HOP。
ロック・ミュージシャンが自縄自縛で新しい音楽を開拓しないのは堕落です。
新しい音楽を吸収してゆくからこそロック・ミュージックは転がる。
ディスコ・ミュージックを取り入れたローリング・ストーンズは当時、大批判を浴びました。
しかし楽曲「Miss You」などは今やロックの古典になっています。
変化を怖れる臆病な人たちは元々ロック・ミュージックと相性が悪いのです。
新しい時代に面してHIP HOPに挑戦した宮本浩次こそがロック・ミュージシャン本来の姿勢でしょう。
大切なことは変わらない
オーヴァー・ダブされたボーカル
しばられるな! 解き放て、新時代
ギリギリのハートでかっこつけようぜ
時代が変わっても変わらぬ宝物
お前の笑顔とオレの魂
出典: 解き放て、我らが新時代/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
宮本浩次のボイスが何重にも畳み掛けるようにあちらこちらから聴こえます。
ここで注目したいのは時代が変わっても、改元などがあっても大切なことは変わらないのだという点。
新時代にはなるけれど時代を越えて大切なものこそを守り抜こう。
この宮本浩次のメッセージは大切です。
人間の暮らしや人生にとって大切なものは愛する人に笑っていてもらえることと自分らしさ。
新しい音楽に挑戦しているけれど大切なものは以前と変わっていないよと歌っているようでもあります。