ここで仕事とは離れた描写が出てきます。

それは主人公のそばに寄り添う人の存在です。

これは仕事や社会とは関係ない、プライベートの描写でしょう。

せせこましく働く主人公とは対照的な存在です。

隣でにこやかに笑う相手。

主人公にとってそれは穏やかで優しいひと時です。

少なからず、主人公はこの人に愛を感じていると考えられます。

「その笑顔を守りたい

歌詞からもそのような主人公の気持ちが伝わってきます。

ちなみに隣にいる相手が男性なのか女性なのか分かりません。

主人公の性別も不明です。

同曲は性別には一切触れず、あくまで「社会の中の1人」という視点で描かれています。

フェアな目線の歌詞になっており、男女問わず共感できるのが特徴です。

だからこそ頑張れる

追い風よさあ吹いてくれよ
背後はもう思い出
向かい風まで吸い込めたらきっと新しくなる

出典: 私生活/作詞:椎名林檎 作曲:亀田誠治

生活の大半を仕事が占めている主人公。

しかしそれだけで生きているわけではありません。

こうした愛する人との些細な時間に癒されているのです。

むしろそのために仕事を頑張っているのかもしれません。

がむしゃらに働き続ける日々

社会の一員として、和を乱さないよう努める日々。

それもこれも、今まさに隣で微笑む人のためかもしれないのです。

主人公にとってこの時間は、ほんのちょっとしたご褒美でしょう。

こうした生きがいがあるからこそ、これからも頑張ろうと思えるのです。

主人公はその都度前を向いて、走り出そうとします。

願わくば自分の背中を押す、見えない力が働くことを願って。

時間は有限

待ってくれない機会や時間

夕日も秋も日曜も沢山はない出会いも浪費している

出典: 私生活/作詞:椎名林檎 作曲:亀田誠治

曲は2番に入ります。

ここで言及しているのは、「時間」です。

1番では物質的なものや心をすり減らしていると表現されていました。

そして2番では時間も使い捨てていると表現されているのです。

私たちは生きていることで、刻一刻と時間をやり過ごしています。

それは自分が嫌に思うことをしていようが一緒です。

楽しい時も、嫌な時も、全て平等に過ぎて行きます。

そう考えると働いているときに過ごす時間は多大なものです。

その時間でどんなに楽しいことが出来ただろうと考えればきりがありません。

新しい人との出会いが、あったかもしれないのです。

しかしそんなことを言っても仕方ないのは主人公も承知のこと。

結局今日も、自分の生活のために目の前の仕事をこなします

無意識に狭まる視野

行ったり来たり繰り返し僕は時代(ひと)によいしょする

出典: 私生活/作詞:椎名林檎 作曲:亀田誠治

主人公は目前の仕事に夢中です。

今日も明日も仕事、仕事、仕事…。

もちろん働くのは必要なことです。

しかしそれに忙殺されてしまっては本末転倒といえます。

「どうせならもっと実りのある働き方をしたい」

主人公はそう思っているかもしれません。

しかし今はどうも、前に進めていない感じがするのです。

働けど働けど、同じ場所を堂々巡りしているような感覚。

人間として前進できていないような漠然とした不安がきっとあるのでしょう。

本人もそれを分かっています。

しかし忙しい毎日の中では、そんなことを考える暇もありません。

いくら捌けど迫りくる仕事のせいで、無意識に視野が狭まっているのです。

だからこそ、ふと立ち止まることが必要といえます。

それがまさに【私生活】です。

同曲は忙しない日常から少し離れ、「自分の本当の意味での生活」を振り返る楽曲といえるでしょう。

もう1つの生き方

自分とは対照的な生き方

あなたの眼には情けな過ぎて哀れに違いない

出典: 私生活/作詞:椎名林檎 作曲:亀田誠治

先ほど主人公の隣にはもう1人の人物がいました。

その人物がここの歌詞で再び登場します。

どこか自分をさげすむような描写です。

これはなぜでしょうか。

おそらく、主人公は相手と自分に差を感じているのでしょう。

毎日同じことの繰り返しで、消耗するだけの自分。

忙しなさを感じさせず、静かに笑う相手

実に対照的です。

「そんな相手から見れば、自分は実にみじめだ

主人公はそう思ったのでしょう。

もちろん、相手に実際そんな気持ちがあるかどうかは不明です。

主人公に笑みを向けている時点で、そのような感情はないと推察できます。

しかし主人公は少し後ろ向きな気持ちになっているようです。

「この人と同じように生きられたら…。」

そんな主人公の声なき願いが伝わってきます。

理想的な生き方