yasuの生み出す独特の世界観
yasuは、明確なコンセプトやテーマを持ってアルバムを制作することが多く、アルバムを構成する曲はそのコンセプトに沿ったもので彩られています。
曲の良さやyasuのキャラクター、ルックスももちろん魅力的ですが、yasuの創り出す美しい世界観の虜になる、という方も少なくないようです。
曲の一つ一つに深い意味を持たせ、どれが欠けても完成しない緻密に計算された構成は他の追随を許すものではありません。
「Round & Round」
4thアルバム『L-エル-』収録曲
今回ご紹介する「Round & Round」は、4thオリジナルアルバム『L-エル-』の最初に収録されている曲です。
2015年にリリースされたこのアルバムは、エルという名の女性の人生が描かれたコンセプトアルバム。
曲それぞれが直接的にそのことを表しているようには思えなくても、yasuが紡いだ『L-エル-』のストーリーを知ってからアルバムを通して聴くと、各シーンにぴったりくるから不思議です。
ドラマチックな人生を送ったエルの心情を表したものや、彼女とつながりのある人間から見た彼女のことが描かれたものなど、音で繰り広げられるドラマが圧巻です。
物語の世界へ誘う曲
「Round & Round」は物語の導入部にあたる曲。聴いた者を物語の世界観に引き込む、重要な役割を持つ曲です。
憂いを含んだダークなサウンドはこれから始まる物語が明るく、ハッピーな結末を迎えるのではないことを予感させます。
不穏な空気は、エルの身にに何かが起こったことを暗示しているかのよう。
彼女に呼びかけられる声は、彼女がいなくなり、色を失った世界で途方に暮れているように繰り返し彼女に呼びかけます。
歌詞を解釈
アルバムの世界観に一気に引き込まれる「Round & Round」の歌詞を、見てみましょう。
こんなに冷たく……
ねぇ今君はどんな夢をみてるんだい?
さっきから微笑んだままで眠ってるんだもの
ほら肩が冷えてる 風邪引くといけない
ほらもうこんなにも冷たくなってしまって
Round & Round 君の世界に
吸い込まれ 光を見たんだ
Round & Round 螺旋を描き
そうすべてが輝いた
もし君のいない世界に生まれてたら 僕は今何をして生きていたのかな?
出典: Round & Round/作詞:林保徳 作曲:林保徳
この曲は、エルと引き裂かれた少年オヴェスがエルに語りかけていると思われます。
引き裂かれてからもずっとエルを愛し続けたオヴェス。
まだ2人ともが何も知らずに無邪気だった頃、悲惨な人生が待っているなんて思いもしなかった幼い頃の幸せだった時代を思い出しているのでしょうか。
冷たくなってしまった彼女は、まるで微笑んでいるかのよう。
悲惨だった人生の面影を感じさせないほどに穏やかなその死は、辛い人生を歩んできた中でようやく彼女が自由になれた瞬間だったのかもしれません。
そして、愛しいオヴェスの元へ魂は飛んで行ったのでしょう。
彼女との絆を失っていないオヴェスは、離れていても彼女を感じていたのです。
エルはきっと、死の間際には常にオヴェスの心が自分に寄り添っていたことに気付いてのかもしれません。
だからこそ、穏やかな顔をしているのでしょう。
魂になって帰ってきた彼女に、まるで生きているかのように優しく上着をかけるオヴェスの様子が目に浮かぶようです。
悲しいけれど、美しい光景。
神々しくさえあります。
君のいない世界
ねぇ今君はどんな夢をみてるんだい?
少し早いけど また寒い季節がきたよ
白く染まる街並 無邪気な子供達
僕はまだあの日のまま 動けないでいる だって
Round & Round 止まらないんだよ
君ばかり甦るんだ
Round & Round 螺旋を描き
哀しみの渦の中
もう君のいないこの世界で これから僕は何をして生きていけばいいの?
ねぇ今君はどんな世界を どんな空を見てるんだい?
これから君はどんな未来を どんな明日を知るの?
出典: Round & Round/作詞:林保徳 作曲:林保徳
眠っているかのような彼女に、心の中で語りかけます。
そっと優しく、まるで世間話をするかのように。
でも、あくまでも自然に。もしかしたら自分が死んだことに気が付いていないかもしれない彼女に、その死を悟らせないために。
少しでも長くそばにいて欲しいから。
まだ幼かった2人を引き裂いたあの日から、オヴェスもまた、動き出せずにいたのです。
引き離されてからも、心はずっとエルと共にあった。
でも悲しいのは、自分が知っているのは幼い頃のエルの姿だけ。
思い出せるのも、目に焼き付いているのも、あの日のエルの姿。
そこで、オヴェスの時は止まってしまったのです。
時は流れ、成長し、大人になってもそこに立ち止まったまま、一歩も動けずに。
繰り返し思い出す、あの別れの時。
そして無邪気に楽しく過ごしていた頃の、屈託のない笑顔。
オヴェスの人生は、エルへの愛とともにありました。