歌詞の切なさを凝縮した歌い出しのワンフレーズに注目します。
ひらがなを使っていますが漢字にすれば「忍び逢い」と変換。
忍び逢いは、密かに会う・密会という言葉に言い換えられます。
公に会えない「忍ぶ」をここではひらがなの「しのび」で表記。
そして人と人が直接顔を見る「会う」と続けています。
耳から入る言葉だけではなく目で見た文字も韻を踏んでいる歌詞。
無意識で楽曲を聴いたとしても心に響くセンスと奥深さがあります。
映画の主題歌には、シーンやストーリーを思い起こさせる役割もありますね。
映画館の外に出たら思わず口ずさむ歌い出しのフレーズ。
今の自分と登場人物たちの人生を重ねれば、自らもスクリーンの中に存在した錯覚を覚えます。
自由に会えない恋は辛いけれど、守ってくれる人がいるのなら。
ふたり一緒の夜に霧が立ち込めれば、見えるのは自分たちの姿だけ…。
霧に覆われる夜はふたりだけのものです。
問いかけの中にあるものは
自然現象を擬人化
知っているのか ふたりの仲を
出典: 夜霧よ今夜も有難う/作詞:浜口庫之助 作曲:浜口庫之助
昼間は会えないふたりは、夜に会う時も人目を忍んで自分たちの時間を重ねます。
誰かに一緒の所を見られたら…それは命にもかかわる危険なこと。
そんな危険を冒してまで会うふたりに、優しさを教えるのが霧。
夜の「霧」は意図したものでは無く、自然現象です。
密かな逢瀬を予想して自然現象は偶然のように現れます。
ふたりの恋に味方をするのは、周りにある夜霧だけ。
夜の霧に包まれた閉ざされた世界なら自由に振舞って良いのです。
刹那の幸せを分け合う、闇の中の霧につつまれるふたり。霧は形もなく言葉もなくただそこにあります。
行き場のない恋の切なさが、自然現象に問いかける作詞家のイマジネーションで編み出されました。
歌詞は心と言葉とつながって
歌詞には言葉と心を掛けているフレーズが再び出てきます。
シンプルな掛け言葉は、ふたりの思いを切り取って綴られる心の言葉です。
明るい陽へのあこがれを
晴れて会える その日まで
かくしておくれ 夜霧 夜霧
出典: 夜霧よ今夜も有難う/作詞:浜口庫之助 作曲:浜口庫之助
会うための連絡も簡単にできない、約束しても絶対に会えるとは限らない。
会えないことを裏切りとは思わないけれど、ただ顔を合わせて言葉を交わす時間が欲しいだけです。
せめて霧の無い夜に会えれば…と願います。
そして明るい太陽の下でお互いの顔を見ながらいつまでも過ごすことが出来たら。
「霧が晴れる」と「誰にも気兼ねをしないで会う」という、ふたりの願いが1つの言葉になりました。
人目を気にせず会える日が来るかどうかの答えを、今は出すことが出来ません。
いつでも会える、そして一緒に居ることが当たり前になる日々が来ることを祈ります。
その日が来るまでは夜の霧の中でたたずむだけ。
霧に閉ざされてふたりの未来は見えないけれど、霧に抱かれればひと時の平穏と静寂が生まれます。
涙とは言わないで…
夜という人目を避けられる時間帯、そして立ち込める霧の中にいます。
霧の中だけは一緒にいられるふたり。誰の目も届かない霧の中。
それぞれの心にある思いをここでなら素直に出すことも出来るのです。
言葉のエッセンスはここにも
夜更けの街に うるむ夜霧よ
知っているのか 別れのつらさ
出典: 夜霧よ今夜も有難う/作詞:浜口庫之助 作曲:浜口庫之助
本当は先の見えない辛い恋に思い切り泣きたい、涙で潤んだ瞳を見て欲しい。
霧で潤んだ外気…涙で潤む瞳と心が、しっとりと歌詞になりました。
声を出さずに静かに泣く恋。霧もふたりの恋に涙を流します。
未来へ通じる微かな光を感じているのは霧の中にいるふたりだけ。幸せを手にすることは無いのです。
夜と霧が作る一緒にいられる限られた時間。
いつまでも周りからは見えない夜は続きません。今出ている霧もやがて消えていきます。
夜が明けて霧が晴れればそれぞれの場所に戻るふたり。
いつもより深く立ち込める今夜の霧は、やがて来る別れを少しでも遠ざけるためなのでしょう。
今だけの幸せ…そしてその先も
倫を外れてしまった愛ではありません。浮ついた気持ちで始めた関係でも無いのです。
今のふたりは真剣にお互いを思っているのに…。神様のいたずらのように、辛い恋の谷間に陥りました。
ただ好きで一緒にいたいだけの純粋な願い。ふたりの間にあるのは純愛という曇りのない心だけです。