「ぼくの街に遊びにきてよ」という誘い
2019年10月16日発表、スガ シカオ×小林武史の配信シングル「ぼくの街に遊びにきてよ」。
東京メトロのCMソングに採用されたこの曲の歌詞を解説いたしましょう。
元々が東京メトロのCMソングということもあり、東京の街に関する歌になっています。
「ぼくの街に遊びにきてよ」と誘われた街は東京でした。
スガ シカオは東京都渋谷区で生まれ育っています。
東京の風情を知り尽くした歌詞を書いてくれました。
観光地としての東京はアメリカ合衆国のメディアなどが世界有数のスポットとして紹介しています。
ただ日本語でアプローチする歌詞ですから国内のリスナーに向けたものでしょう。
また東京といっても広い土地です。
東京の地下を網の目のようにして走っている東京メトロを利用して街と街を行き来しようという思いがあります。
東京都民同士が「ぼくの街に遊びにきてよ」と誘い合っている風景にも捉えられるのです。
東京には古い街並みと高層ビルが混在しています。
未来の都市感では諸外国の都市に負けているかもしれません。
それでも昭和レトロを感じさせる風景とモダンな建築物が寄り添っているのが東京の良さでしょう。
スガ シカオによる東京案内のような歌詞ですが、着眼点が少し違います。
スガ シカオは観光スポットにはならないような街の魅力を紹介してくれるのです。
どんな東京が浮かび上がるでしょうか。
実際の歌詞を見ていきましょう。
平凡な日常を愛する
君に感じて欲しいものがいっぱい
雨のあと 立ち込める草のにおい
思いっきり深く吸う
割とうまく 今はやれてるよ 今日も昨日も
良くも悪くもない日々に 深呼吸
出典: ぼくの街に遊びにきてよ/作詞:スガシカオ 作曲:小林武史
小林武史による鍵盤メインのサウンド・メイキングが見事でしょう。
そこにスガ シカオの安心させてくれるようなボイスが乗っかります。
歌われている内容も情緒が滲んだ素晴らしい歌詞になっているのです。
登場人物は語り手のぼくと愛する君。
ふたりの関係は最後まで明示されませんが、どこか恋愛要素を感じさせます。
しかし恋愛要素を抜きにして君を愛するリスナーと考えても問題なく解釈できるのです。
どちらにとってもいいようにふたりの具体的な関係性には巧妙なぼかし方をさせています。
スガ シカオに誘われているような思いをしたいのでしたら君に自身の姿を投影しましょう。
意外と緑地も多い東京
誘われている街の風景は割とどこにでもあるような平凡なものです。
しかしその街の空気のようなものは住んでいる者にしか分からないかもしれません。
事実、ぼくはこの街の空気感が大好きなようです。
雨上がりの空気は浄化されて気持ちがいいでしょう。
草むらから立ち込めるにおいを嗅げるというのは東京でも緑深い土地かもしれません。
東京はイメージされるよりも緑地が多いです。
コンクリート・ジャングルのような印象は住んでいる人からすると都市部だけのものでしょう。
緑を感じられる公園も大小問わず結構あります。
雨上がりの日に草のにおいを嗅げる空間は多いというのが事実です。
そうなるとスガ シカオが「ぼくの街」と呼ぶ地域が分からなくなります。
そして特定できないからこそ東京メトロが通る全域のCMソングに採用されたのです。
ぼくは君に日々は変わりないと報告します。
ニュースは日々内容が変わるのですが庶民の暮らしには概ね大きな変化は訪れません。
日々を大切に生きているためにどの日も普通でしょう。
普通やら平凡な日常こそ都会暮らしでは大切なものなのです。
スガ シカオ少年の姿
少年の記憶のフラッシュバック
緑道の石段で 少年だったぼくとすれちがう
はやく大人になりたくて ただ傷つけあった
あの日を思い出して 深呼吸
出典: ぼくの街に遊びにきてよ/作詞:スガシカオ 作曲:小林武史
東京では土地の勾配があります。
坂道になっている箇所もあれば、歌詞のように階段状に整地されている場所もあるのです。
平坦な土地は埋立地であったところくらいかもしれません。
山というほど大袈裟ではないですが丘くらいのものはあります。
そして川の水によって削られてできた谷も多いでしょう。
スガ シカオが生まれ育った渋谷はまさに谷です。
あの土地も勾配があります。
丘に向かってゆくと閑静な住宅地があるでしょう。
松濤など日本でも最高級の歴史ある住宅地があります。
道はほぼ全域でコンクリートによる舗装がされているでしょう。
しかし昔ながらの石段を大切に遺している土地もあります。
いまも昔も変わらない石段を登り降りしているうちに少年の頃の記憶がフラッシュバックしてくるのです。
異端視されたギター少年少女
スガ シカオは街案内をすると同時に自分について紹介してくれています。
どのような少年時代だったかを回想するのです。
そのことによってスガ シカオの人となりが浮かんでくるでしょう。
スガ シカオ少年はませていたのかもしれません。
音楽の道を進む決意をした少年少女はギターの習得のために成長します。
クラスメイトがまだ知らない音楽の知識を吸収して大人の道へ先に進むのです。
そうしたませた少年少女はクラスメイトと些細なことで軋轢を生じさせます。
大人ぶりたいギター少年少女はクラスメイトから異端視されることもあるでしょう。
子ども同士の傷付け合いというのは一過性のものです。
多くは懐かしい思い出になるでしょう。
しかし少年少女期のトラウマによって一生を台無しにされる人も中にはいます。
とはいえこの曲「ぼくの街に遊びにきてよ」ではそうした破綻する現実はあまり描かれません。
安心して聴いてもらえることを第一に考えた作品ですから当然でしょう。
スガ シカオも大人目線で少年だった頃の自分を懐かしく思い返します。
そしてこのラインでも深呼吸するという描写が登場するのです。
深呼吸は昔日の面影といまの空気を両方とも思い起こさせてくれます。
あの頃嗅いだ空気感と同じ感触が、街の大気に残っていることを確認するのです。
空気の薫りでここが生まれ育った「ぼくの街」だと思えるのでしょう。
東京が舞台じゃなくてもこうした思いはできるはずです。
深呼吸は生きている私たちにとってどこまでも大切なことでしょう。