その続きを知りたくて
賢者を訪ねた
すると彼は言いました
「教えない」
何度も同じ扉の前に辿り着いては
ノックしかけたんだけど
君が手を貸してくれたなら
出典: 幸せになろう/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
読書家でもある宇多田ヒカルの知性とユーモアのセンスが感じられるパートです。
物語に出てくる賢者は、自分を訪ねて遠い道のりをやってきた悩める人に何らかの答えを授けるでしょう。
ところがここに登場する賢者は違います。
意地悪というわけではなくて、そんなに簡単に答えは出ないということなのでしょうね。
誰かに「はい、これが答えです」と教えてもらえるほど人生は簡単ではありません。
誰もが幸せを求めて長い旅をして、幸せのすぐ前まで来ることはできてもその先には行き着けない。
思い切って扉を叩いてみたいけれど勇気が出ない。
そんな時にあなたに助けて欲しいと歌っているのだと思います。
扉の向こうにはあるのは彼女が求めていた幸せなのでしょうか。
言葉を選ぶセンス
メロディーが先で歌詞は後から?
幸せになろう
あくまでも希望
現実は意外と…(ヲー!)
決めないでおこう
不確かな世相
だからこそあなたと…(ヲー!)
幸せになろう
言い訳は無用
遠回りしてでも…(ヲー!)
待ち合わせしよう
跳び箱の向こう
両手でしっかりと…
出典: 幸せになろう/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
ここでもう一度「ヲー!」の入るパートです。
切ない願望を歌っているのにあえてリズムを重視した言葉がたくさん出てきます。
希望、世相、無用などですね。
たぶん宇多田ヒカルの曲作りはメロディーが先で歌詞を後から考えているのではないでしょうか。
言葉を選ぶセンスもあり、出来上がった曲に彼女らしい個性がしっかりと表れているのは見事です。
メロディーに当てはめたであろう言葉たちが悲壮感を漂わせることなく幸せへの願望を表しています。
最後に跳び箱が出てくるのはやはり10代を感じさせるところです。
しかし体育の授業に出てくる道具が学校や幼さを連想させることはありません。
幸せへ向かってジャンプするための道具となってすんなりと聴く人の心に入ってくるのです。
踏み台を勢いよく蹴って飛んだその先にあるのはもちろん彼女が望む幸せなのでしょう。
最後はハッピーエンドで
切ない曲を締めくくるピアノの音
幸せになろう
当然の野望
明日は今日よりも…(ヲー!)
約束をしよう
夜通し話そう
私達はずっと…(ヲー!)
幸せになろう
悲しみは利用
寄り道もしたけど…(ヲー!)
今すぐに会おう
思い出の向こう
明日は今日よりも…(ヲー!)
出典: 幸せになろう/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
最後のパートに入る前の間奏まで来ると完全に宇多田ヒカルの世界に浸った状態になります。
コーラスと彼女の英語が洒落たリズムに乗って渦巻いているようで、何ともいえない感じです。
幸せになりたいという願いを「野望」と名付けてしまうセンス。
言葉遊びさえも聴く人にとっては心地よく感じられるのもまた才能だと思います。
最後に出てくる「思い出」の中には過去の恋愛だけでなく彼女が経験した哀しみや寂しさもありそうです。
そして一番最後に再び鳴り響くピアノの和音は、ハッピーエンドが訪れたみたいでとても素敵です。
切ない雰囲気が漂う曲をこの音で終わらせたところにも彼女のセンスを感じますね。
この曲を聴いた人たちにも明日は幸せになれるという希望を与えてくれるようなエンディングです。
疎外感や孤独感から生まれた音楽
ニューヨーク生まれの宇多田ヒカルは様々な国の人が集まるインターナショナルスクールへ通いました。
彼女はその中で浮いた存在だったそうです。
住む場所も安定せず、日本にいる時に母親から『明日からアメリカに行く』と急に言われたこともあったとか。
ここは自分がいる場所ではないという疎外感や孤独感、明日はどうなるか分からないという不安感。
そんな感情が彼女の作る曲には表れているように感じます。
『音楽に救われた』と語る記事を読んだことがありますが、彼女は自分自身の才能に救われたともいえるのです。
感じたことや心の中に抱える想いを個性的で知性とセンス溢れる音楽として表現する。
宇多田ヒカルこそ「アーティスト」という言葉が相応しい人なのだと思います。
「Prisoner Of Love」と「花束を君に」
OTOKAKEから宇多田ヒカルの記事をご紹介します!
OTOKAKEには他にも宇多田ヒカルの記事がたくさんあります。
その中からふたつご紹介したいと思います。
どちらもPVの紹介とともに彼女が書いた歌詞に迫る内容となっていますので、是非読んでみてくださいね。
まずは「Prisoner Of Love」の歌詞の意味について紐解いた記事です。
宇多田ヒカル「Prisoner Of Love」の歌詞の意味を紐解く♪ - 音楽メディアOTOKAKE(オトカケ)
心地よいR&Bのリズムや艶のある声、そして心に響く歌詞が魅力の宇多田ヒカル。日本の音楽シーンに衝撃を与えたデビューから2018年で20周年を迎えます。大人びたインテリジェンスを感じられる宇多田ヒカルの「Prisoner of Love」の歌詞の意味を紐解いていきたいと思います。