なにを救うため?

もしも僕らが生まれてきて
もしも僕らが大人になっても
もしも僕らがいなくなって
いても そこに僕の歌があれば
それでいいさ

出典: 僕は今日も/作詞:Vaundy 作曲:Vaundy

人々はこの世界に命を授かったその瞬間から、着実に大人に向けて成長していきます。

そして同じく大人になった人々は着実に、死に向かって進んでいくのです。

どんな手段を使ったとしても逃れることのできない、ある意味唯一定められた運命のようなものでしょう。

死んでしまえば、もう自分から何かを発信することはできません。

家族や親友などよほど親しい間柄でなければ、思い出してその存在を懐かしんでもらえることもほぼないでしょう。

これって、なんだか寂しくありませんか…?

少なくとも主人公Vaundyは、そんな運命にもどかしさを感じています。

しかし彼がほかの人たちと違うのは、彼が歌という手段を持っていること。

彼が死んだとしても、彼が弾き語り続けた歌だけは永遠に残り続けます。

自分が自分を救うために弾いていたこの歌は、自分自身が生きた証としていつまでも誰かに影響を与え続けるでしょう。

歌詞を見ると、Vaundyはそれを望んでいるように感じられるのです。

…ということは、彼にとっての歌が「自分自身を救うためのもの」だけではなくなりますね。

さて、彼の本当の想いは一体どのようなものなのでしょうか。

恋人からの言葉

彼女が言ってたんだ
あなたはカッコイイから
イケメンじゃなくてもいいんだよ
また 元も子もない言葉を君は言う

出典: 僕は今日も/作詞:Vaundy 作曲:Vaundy

さて、ここで突然、冒頭の歌詞を彷彿とさせる展開を迎えます。

母親、父親に続いてVaundyの心を乱すのは、安らぎを与えてくれるはずの恋人でした。

恋人も彼の両親と同じように、Vaundyの才能を認めています。

だからこそ引用部分2行目の通り、彼のことを心から褒め称えているのでしょう。

しかしその気持ちを伝えたいあまり、要らぬことまで口走ってしまったようですね…。

ちょっぴり卑屈なVaundyには、恋人からの最上級の誉め言葉だって素直に受け入れられないのです。

救えるまで続く歌

正反対の気持ちが衝突

僕はできる子と暗示をして
心が折れる音が聞こえた
思ってるだけじゃ そう 辛くてでも
そうする他にすべはなくて
明日は晴れると暗示をして
次の日は傘を持って行った
抑えてるだけじゃ そう 辛くて
だから この気持ちを
弾き語るよ

出典: 僕は今日も/作詞:Vaundy 作曲:Vaundy

さて。ここで改めて、周囲の人々から主人公にかけられた言葉の数々を思い出してみましょう。

母親から向けられた賞賛の言葉。

父親から浴びせられた罵声

恋人からもらった無意味な言葉。

どれもこれもVaundyの心に深く刻み込まれ、そして彼の行動や思考を縛りつけていました。

種類は違えど、彼に「褒められるような人であれ」と強要しているように感じられませんか?

引用部分2行目にある通り、知らず知らずのうちに重圧を感じて押し潰されていたVaundy。

辛く苦しい気持ちに支配されているようです。

そして引用部分5~6行目からも、主人公Vaundyが抱える鬱々とした気持ちが手に取るようにわかります。

一般的に考えて、晴れの予報が出ている日に雨傘を持っていくことはほぼありません。

しかし彼は持って行った。

歌詞中にある天気を意味する言葉は、決してそのままの意味で使われていません。

晴れ=明るく希望に満ちた気持ち、そして雨=暗く鬱々とした気持ち、という意味でしょう。

つまりこの部分は、現実に期待できないVaundyの心の内を映し出しているということ。

無理やり自分自身を鼓舞したって、結局信じることなんてできないのです。

この先訪れる未来にも、そんな上っ面の言葉で鼓舞しようとする自分自身のことも…。

だからこそ彼は、一見すると矛盾している行動をとったのでしょう。

歌うことに疲れたけれど…

ピアノの音が聞こえる
ガラガラの声が聞こえる
枯れてく僕らの音楽に
飴をやって もう少しと
その気持ちを

弾き語るよ

出典: 僕は今日も/作詞:Vaundy 作曲:Vaundy

ここでは主人公Vaundyがピアノを弾きながら歌っている姿が描かれています。

しかし引用部分2行目を見ると、どうやら本調子ではない様子…。

さて、彼の声はなぜ枯れてしまったのでしょうか。

これを考えるヒントは、これまでに登場した歌詞中にも隠されています。

彼は様々な「たられば」話を繰り返しながら、理想と現実のギャップに苦しんでいました。

そんな彼は自分自身を救うために、そして(答えはまだ明かされていませんが)何かを救うために歌っています。

しかし自分自身を救いたいだけだったVaundyにとっては、背負うものが大きすぎたのでしょう。

もしくは彼1人では、たくさんの想いを救いきれなくなってしまったのかもしれません。

それでも、なんとか抜け出したくて歌い続けていたからこそ、歌詞にある通り声が枯れてしまったのです。

まだ歌い続けたいのにうまく歌えない。

そんなもどかしさを抱えながらも、必死に歌い続ける様子が描かれていますね。

本当に救いたかったのは

もしも僕らが生まれてきて
もしも僕らが大人になっても
もしも僕らがいなくなって
いても そこに僕の歌があれば
それでいいさ
もしも僕らに才能がなくて
もしも僕らが親孝行して
もしも僕らがイケていたら
ずっとそんなことを思ってさ
弾き語るよ

出典: 僕は今日も/作詞:Vaundy 作曲:Vaundy