発売前日まで情報ゼロの異例のアルバム
初動50万枚を超える
「擬態」は、2010年12月1日にリリースされたMr.Childrenの16枚目のオリジナルアルバム「SENSE」の2曲目に収録されています。
「SENSE」は、前作「SUPERMARKET FANTASY」から約2年ぶりとなるオリジナルアルバム。
その間「365日」などのダウンロード配信はあったもののCDシングルの発売はなく、また発売前日までアルバムの収録曲の発表やプロモーション活動も全くないまま、この「SENSE」はリリースされています。
これはコンセプトアルバムという形を大切にしたプロデューサー小林武史の戦略ですが、先行シングル曲が一切なしという、彼らにとってはチャレンジ的なアルバムでした。
しかし、このような情報がほとんどない状態でリリースされたにも関わらず、アルバム「SENSE」は初動50万枚を超え、オリコン1位を獲得しています。
まさに彼らの人気の高さを示したアルバムとなりました。
アルバムのリード曲として
先行シングルがないため、彼らのアルバムとしては地味に映る「SENSE」ですが、収められているナンバーはシングルとして発売してもおかしくない佳曲ぞろいでした。
たとえば、NTT東日本、西日本のCMソングとして使われ、ファンの間でも人気の高い「365日」。この曲はファンクラブ限定ツアーで、「会員が最もライブで聴きたい曲」の29位に選ばれています。
またラストの「Forever」は2010年9月4日に公開されたドキュメンタリー映画「Mr.Children/Split The Diffence」のエンディング曲として使われ、その美しい旋律と歌詞は感動を呼びました。
アルバム唯一の配信限定シングルとなった「fanfare」、過去のミスチルの楽曲のタイトルが歌詞に散りばめられた「Prerude」など人気の高い曲も目白押し。
そしてこの「擬態」。
こちらは、前述した「365日」、「fanfare」と共に、2012年5月12日にリリースされたベストアルバム「Mr.Children 2005-2010<macro>」にも収録されています。
シングル発売されていないにも関わらず、このベストアルバムに収録されているということは、彼らがこの曲はアルバム「SENSE」を代表するナンバーだと認知している証拠だとも言えるでしょう。
元々は提供曲
代わりに「青空」を提供
アルバム「SENSE」の発売前、特設サイト上では「トビウオニギタイ」という謎のフレーズが公開されていました。
これは、この「擬態」のサビから取られたもの。
これこそ、「擬態」がアルバムのリード曲として考えられていた証拠なのですが、実はこの曲、元々は女性シンガーのSalyuに提供するために作られたナンバーでした。
ライナーノーツによれば作っているうちに愛着がわき、「提供するのはもったいない」ということで、このアルバムに収録されることになったと言います。
Salyuには代わりに「青空」という楽曲が提供されているのですが、こちらはほのかに心に沁みるラブソング。
「擬態」とは全く性格の違うナンバーですが、優しい旋律でとても素敵なナンバーです。
こういう曲を代わりに提供出来てしまうというところはさすがとしか言いようがありません。
桜井和寿のメロディーメイカーとしての才能を感じずにはいられない佳曲。
彼自身が歌っている動画もあるので、こちらを載せておきますね。
擬態とは!?
現代社会への痛切な指摘
「擬態」は、動物が防衛や攻撃のために、自分の体や動きを周囲の物や生物に似せることを言います。
たとえば、身体の色を変えるカメレオンやヤモリ、また海中のヒラメやカレイ、タコなどが有名ですよね。
また多くの種類の昆虫は、この擬態を効果的に使って生活していることが知られています。
桜井和寿はこの「擬態」という言葉を哲学的に捉えて、現代社会を鋭く切り取った歌に仕上げています。
時代を切り取る眼
比喩表現がマシンガンのように
ビハインドから始まった
今日も同じスコアに終わった
ディスカウントして山のように
積まれてく夢の遺灰だ
出典: 擬態/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
この「擬態」は非常に多様な比喩表現を用しています。
それは洪水のように圧倒的と表現してもいいくらい。
もともと、桜井和寿は比喩表現と多彩な単語を上手くつかって、生活の断片を切り取るのが上手い詩人ですが、特にこの「擬態」で目立つのは、知的な語句と英語の混合体。
出だしの『ビハインドから始まった』という一節で、現代社会の中で消耗する人々の姿を表現してしまうのはさすがとしかいいようなありません。
ビハインド=負けている状態からのスタート。やるせない日常が浮かび上がります。
『ディスカウントされた夢の遺灰』というフレーズも、毎日の暮らしの中で消えてゆく願いや想いを的確に表現していますね。