夜の街に夜を感じる
何時何分?外は暗いよ
街灯の下に落ちた
白いビニール袋の中
何もないからか
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
走り出した僕の目の前に広がっていたのは、夜の街です。
夜明け前の数分間ですから、まだ太陽は姿を見せない完全なる「夜」。
こんなにも暗いものなのかと、時間を気にします。
暗がりの中で唯一明るさを与えてくれるのが街灯です。
そこに落ちているビニール袋は、太陽に照らされているような白。
中を覗くと何も入っていませんでした。
太陽は今、何も照らしていない。僕がいるのは確かに「夜」なのだと実感します。
だからもうすぐ「君」が来る、ということです。
歩いている人もいなくて
車を走らせてばかりで
知りたいから 夜明けまでに
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
夜の街に人影はありません。
夜明け直後の太陽に照らされた人は、なにかリアクションをするかもしれない。
その瞬間を逃したくなくて、歩いている人を探して車を走らせます。
夜が夜明けになる瞬間を見逃したくないのです。
非現実的な空想に怯える僕
リズムが消えた合奏に夏の時の妖怪に
怯えた夜の空想が嘆いたり喚いたりしてる
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
合奏から拍子が消えてしまうと、どうなるでしょうか。
それぞれの楽器やそれぞれの奏者がバラバラにリズムをとり、騒がしいだけになります。
心が乱されるような、耳障りな音の暴力と言えるでしょう。
「時」「妖怪」という言葉から思い浮かべるのが「逢魔が刻(おうまがとき)」です。
昼が夜に移り変わる時間帯には魔物が出現しやすいと言われています。
夏は日が長いですから、逢魔が刻の訪れは遅く、短い夜を知らせる象徴とも言えるでしょう。
リズム=拍が消えたことで、太陽が顔を出す瞬間を見失う自分を想像し、嘆きます。
逢魔が刻が太陽を連れ去ったと喚きます。
とにかく「僕」は落ち着きません。
穴の空いた空白に音を消した一拍に
起きるまでの数分間で
僕は夢の中を走り出したよ
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
空想をして落ち着かない僕。
空想ですから、自分の力で止めることができます。
「音が消えた一拍」だった歌詞が、ここでは「音を消した一拍」に変わっていることからも分かります。
夜が終わり、太陽が目を覚ませば「夜明け」です。
太陽が起きる前の「夜明け前」に、僕はまた走り出しました。
しかし、街に向かったのではありません。夢の中を走り出しました。
合奏からリズムが消えることはありません。逢魔が刻が太陽を連れ去ることもありません。
大抵の人は色がついた夢を見るはずです。
普通ではないことばかりが連なるモノクロの景色の中=夜を走り出したのです。
夢が終わり、振り出しへ
辿れない嘘 つまらない夢
ガラガラの声 人は叫ぶよ
何もないのは 君がいないのは
僕の人間 そんなのヤダよ
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
君との関係の中で、どこまでが嘘でどこからが本当なのか分からないのでしょう。
怯えて嘆くばかりの夢も楽しくありません。
夢の中だと分かっていても、嘆きや喚きは止まらず、次第に声が嗄れていきます。
不完全な僕は、君という太陽がなければ成り立たないと歌います。
気づかないまま わからないまま
笑われるのは 好きじゃないんだよ
一人二役の その主人公が
終わりを告げて 眠りから覚める
出典: 夜明け前に/作詞:樋口侑希 作曲:樋口侑希
太陽である君が、なぜ僕を笑っているのか。笑い始めたのはなぜなのか。
夜である僕を光であざ笑い初めた瞬間を知れば、理由に辿り着けるかもしれません。
夜と朝を演じる「夜明け」が告げた「終わり」は、夜の終わりではありません。
僕が見ていた「夢の終わり」です。
夜明けとともに目を覚ました僕は、太陽が出る瞬間に気づかずに朝を迎えました。
つまり、君に嫌われる理由がわからないままなのです。
きっと僕はまた、夜明け前の街に飛び出して行くのでしょう。
太陽が夜を塗りつぶす一瞬に、君が僕を嫌う理由が見つかるかもしれません。
君を失った理由を探す「夜明け前に」
何の理由もなく離れていった恋人に、ワケを訊ねるのは簡単かもしれません。
しかしその行動が更に相手を傷つけたり、より一層嫌われる原因になることも。
だから「夜明け前に」の「僕」は、その理由を自分で探すことに決めたのでしょう。
きっとどこかにヒントがある、けれど「僕」は答えに辿り着けません。
「夢から覚めたら二人の仲が戻っていたらいいのに」
そんな願いすら感じる「夜明け前に」でした。