歌詞を紐解く
それでは「ギャグ」の歌詞を紐解いていきましょう。
紙を重ねて 指を重ねて
物語は動き出す
ギャグの隙間に 本当の事を
祈るみたいに隠して
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
まずは冒頭部分です。「紙(かみ)」「祈る」という言葉からブッダやイエスなどの「神(かみ)」を連想することができます。
「紙」と「神」に関しては語感を合わせるというダジャレになっていて、まさに「ギャグ」を感じる歌詞になっています。
また漫画が原作ということもあり、紙にペンを走らせ物語を展開していく姿も想像できますし、「指を重ねて」という言葉からも祈る動作が連想できるので、この一つのセクションの中に「聖☆おにいさん」に関わる色んな要素を提示していくような導入になっています。
インクが瞳に染みた
涙では流れぬもの
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
そして、「インク」という言葉をさらに提示することで漫画を描いていく動作のイメージをそのまま引き連れていきます。
紙に描いたキャラクターの瞳にインクを落とし、目が描かれていく様子やさらに漫画が出来上がっていく過程が浮かび上がってきます。
まだ漫画を描いている段階では水を与えるとそのインクは滲んでしまいますが、完成した作品は漫画として印刷されたものになることで滲まない作品として残ります。
つまり作品を完成させることで、色褪せないものとして残っていくという形あるものの良さを歌っています。音楽は形に残らないので自分の仕事と比べているのかもしれませんね。
今を捲って 命動き出す
見えない四角の間飛び越えて
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
そして、サビに入ります。漫画は1ページ1ページ捲っていくことでストーリーが展開し、キャラクターにどんどん命が吹き込まれていきます。
世の中には色んな漫画がありますが、その一つ一つにそれぞれのストーリーがあり、作者の想いがこもっています。
夢や希望を与える冒険漫画や、青春を感じるスポーツ漫画、恋愛に心を動かされる恋愛漫画など色んな漫画がある中で、それが何でもないギャグ漫画だとしてもただ笑えることの大切さや、その面白さの中に隠れた作者の意図がきっとこもっているはずです。
その想いこそが導入部分で歌われているギャグの隙間に隠された本当のことなのではないでしょうか。
そうやって作者の想いを私たちは漫画という枠を超えて受け取って、現実の世界を生きていくのです。
馬鹿みたいだろ ただ笑うだろう
目の前を嘘と知って
誰かが作る 偽の心を
腹の底から信じて
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
漫画にしても、映画にしても、音楽にしても、私たち人間は他人の作った創作物に自分なりの意味を見出し、そこから様々な感情や想いを受け取ります。
しかし、創作者の想いがどんなものなのかは作った本人にしか分かりません。例えばこの歌詞を紐解いている作業もそうです。星野源の書いた歌詞の意味を推測しているに過ぎません。
とはいえ、私たちはそれを分かった上で想いや意味を受け取っているのです。正しいか分からないものを信じることは怖いことであり、愚かなことかもしれません。
しかし、このセクションの冒頭部分はそれをただ嘲笑っているわけではないように感じます。「だろ」や「だろう」の後に「?」が付くような、また「それでも」と続いていきそうな強さを感じてならないのです。
怖くても、愚かでも自分の信じる想いを大切にしていく決意が笑いの中に隠れているのではないでしょうか。
インクが紙に滲んだ
涙では流れぬもの
今を捲って 命動き出す
見えない四角の間飛び越えて
フィルム飛び越えて
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
そして、1番の歌詞を踏襲していきます。
この漫画に「紙(神)」が描かれていることや、もはや漫画だけでなく「フィルム(映画)」も飛び越えて想いを届けていくものであることが伝わってきます。
救われた記憶も 聞いたことのない声も
胸の中に響く また逢えるように
重ねた時を綴じよう
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
ずっと心に残っている作品というものは誰の心の中にでもあるのではないでしょうか。それは漫画でも映画でも構いません。
目に焼きついたワンシーンがあったり、グッときたセリフがあったり、その一つ一つが現実の人生を支えてくれることがあります。それが漫画や映画の良さの一つです。
また人は誰しも平等に命に限りがあります。それを「重ねた時を綴じよう」と表現しているように感じます。
長い人生を積み重ねていく中で、人生の支えとなる作品に出会い、その作品を胸に人生を終えていくことは素敵なことではないでしょうか。
今を捲って 命動き出す
見えない四角の間飛び越えて
紙を捲って 君が動き出す
見えない自分の殻を飛び越えて
弱さ飛び越えて
出典: ギャグ/作詞:星野源 作曲:星野源
そして、心に残った作品はたくさんの人の心を突き動かします。
作品の中にこもった想いは漫画や映画という枠を飛び越え、私たちに届くだけでなく自分が知らず知らずに作ってきた枠までも超えていくのです。
そうやって想いはどんどん繋がっていきます。夢や希望、勇気や愛情など様々な感情に突き動かされて、影響を受けて私たちの人生が作られていくのです。
漫画が映画という作品の良さや可能性を感じる締めくくりになっています。